豊かな自然と油揚げがお出迎え! 空き家バンクを活用してUターン、Iターンを受け入れる

ふるさとの「空き家」活用大革命[第1回]

株式会社LIXILが運営しているリクシルオーナーズクラブ「住み人オンラインー住まいと暮らしのレシピ集」より抜粋してお届けします。

空き家の利活用の中核となるのが、全国の自治体の3分の1ほどで運営されている「空き家バンク」です。「貸したい、売りたい」人と、「借りたい、買いたい」人をマッチングさせるサービスです。今回は、空き家を利活用している事例をご紹介します。

油揚げで町おこし?

栃尾名物あぶらげ。街中には15軒を超えるあぶらげ屋がある。
栃尾名物あぶらげ。街中には15軒を超えるあぶらげ屋がある。

 いま日本中で「空き家」が大問題になっています。その数は840万戸。中でも深刻なのが、売ったり貸したりできない空き家が318万戸もあることです。放置された空き家は、建物が傷み庭木や雑草が伸び放題になり、地域の景観を損ねるばかりか、野生動物が棲みついて衛生状態が悪化したり、犯罪の温床になったり、いいことは一つもありません。

 全国各地で空き家対策が急務となっていますが、中でも先進的に取り組んでいる地域の一つが、新潟県長岡市です。

 長岡は城下町で、人口は県内で2番目。平成の大合併により、日本海から山間部までさまざまな表情を持つようになり、免責は東京23区の1.5倍弱の890キロ平方メートルもあります。日本一の花火でもおなじみで、その模様はテレビ中継されるほど人気があります。

 いま、長岡市の中山間部に、休日ともなると県内外から観光客が訪れる地域があります。それが栃尾です。特に大きな観光施設があるわけではありません。豊かな自然が生み出す、清らかな水を使った豆腐や、これを生かした油揚げが、評判を呼んでいるのです。

新潟県長岡市とちお あぶらげ店マップ
地図もつくられ、観光客向けに配布されている。

 栃尾の油揚げは、ビールや日本酒のあてとして、県内のみならず全国にファンがいるほどです。分厚くて、外はカリカリ、中はふっくらした触感で、刻んだねぎをのせてしょうゆをさらりとかけ、いただきます。

 油揚げは、地元では「あぶらげ」と呼びます。市内にはあぶらげ屋が軒を並べ、さらに全国に出荷する工場では、1日に6万枚のあぶらげを出荷しています。

 あぶらげは、栃尾の町おこしにも一役買っており、あぶらげストリートマップもつくられ、土日ともなるとあちこちで行列ができます。
 中には、食堂も併設している人気店もあります。

田舎暮らしは家を借りてお試し生活から始める

 観光客には人気の栃尾ですが、全国の中山間部同様、人口減もあって空き家が増えています。もちろん、長岡市も手をこまねいているわけではありません。平成22年から「空き家バンク」を設置し、移住希望者を積極的に受け入れてきました。

この景色が気に入って移住する人も少なくないとか。
この景色が気に入って移住する人も少なくないとか。

 空き家バンクとは、自治体が運営する空き家紹介のサービスです。空き家の所有者が登録した情報を、UターンやIターンなどの移住希望者が、購入したり、借りたりできる空き家情報を、ホームページで閲覧できるよう公開しています。

 同市の空き家バンクの立ち上げから、運営に携わり、移住促進のための補助金制度の整備などにも携わってきたのが飯浜勝昭さんです。市役所を退職した現在は、行政書士として空き家の利活用にも積極的に取り組んでいます。尽力しています。

「平成25住宅・土地統計調査によると、長岡市の空き家率は12.6%で、全国平均の13.5%より少し低くなっていますが、他所と同様に増加傾向にあります。高齢者世帯の方が戸建て住宅から集合住宅に住み替えるケースや、施設入所で空き家になるケースが増えてきているように思います。空き家バンクを利用して移住された方も少なくありませんが、老後を田舎暮らしでのんびり暮らしたいという方もさることながら、カフェやゲストハウスにリノベーションして活用している若い方もおります」

長岡市の空き家バンク立ち上げにはじまり、さまざまな制度を整備てきた飯浜勝昭さん。現在も空き家の利活用に奔走している。
長岡市の空き家バンク立ち上げにはじまり、さまざまな制度を整備てきた飯浜勝昭さん。現在も空き家の利活用に奔走している。

 こう語る飯浜さん。豊かな自然に恵まれたこの地に一目ぼれして、空き家バンクを閲覧して決めるケースも珍しくないそうです。

「最初から空き家を購入するのではなく、まずお試しで住んでみたいという方にも、空き家バンクは便利です。家賃が低く抑えられている物件が多いので、安いので、地元の不動産業者さんにとっては、賃貸の空き家だとビジネスになりにくい。ですから、条件に合えば、空き家バンクの物件はけっこう魅力的ではないかと思います」ということが、必然的に多くなります」

空き家バンクを介して大きな古民家をギャラリーに

 空き家の活用法は「住居」だけではありません。陶芸家の矢澤清さんは、制作スタジオとして、また陶芸教室や展示販売の場として活用しています。

栃尾には焼き物に適した土にも恵まれているとか。制作に没頭できる環境が気に入ったという矢澤清さん。
栃尾には焼き物に適した土にも恵まれているとか。制作に没頭できる環境が気に入ったという矢澤清さん。

「ここは空き家バンクで見つけました。敷地は350坪で、空き家に制作スペースをつくり、母屋の42畳分のスペースを、自身や陶芸教室の生徒さんたちの展示に充てています。栃尾の商店街から離れた静かな場所で、景色もよく大変気に入っていますし、ご近所さんも親切にしてくださり、制作に没頭できますね」

 矢澤さんの住まいは新潟市内で、50キロ弱の「通勤」をして、毎日田舎暮らしを満喫しているそうです。電気窯を設置して思う存分、作品づくりをされています。

「街中ですと、ギャラリーの広さの問題もあって、教室に通ってくださる方々の作品を発表する機会も限られます。ですが、ここなら展示できて、見に来た方に購入してもらえます。お金を払っていただくということは、作品が評価されていることですから、生徒さんたちの大きな励みにもなりますね」

 建物もしっかりしていたため、展示スペースはあまり手を加えていません。
 アトリエは少しずつご自身で手を加えて、いまでは何人もの生徒さんが同時に作品作りすることもできるようになったそうです。
「庭に蔵もあって、自由に使っていいと言われています。この先、蔵もきれいに整理して、常設のギャラリーにしたいですね」

 クラウドファンディングも利用して、施設の拡充を図りながら、矢澤さんの空き家活用はますます広がっていきそうです。

矢澤さんの住まい。自身の作品のほか、陶芸教室の生徒さんの作品も展示販売している。
矢澤さんの住まい。自身の作品のほか、陶芸教室の生徒さんの作品も展示販売している。
電気釜も設置、手作りの広い制作スペースもお気に入り。
電気釜も設置、手作りの広い制作スペースもお気に入り。

空き家バンク利用で、農地付きの住宅も購入可能

 新潟は、言わずと知れたお米と日本酒の産地。この集落の近くに、小さな酒蔵がありました。東京の大学で酒造を学び、一度火が消えた酒蔵の復興を目指している若者や、東京での会社員生活に終止符を打ち、実家の農業に従事しようという方もいらっしゃいました。

 農業を目的にしたUターン・Iターン者は少数ですが、自治体のバックアップを受けたり、農業生産法人に就職して技術を学んだりして、プロの農家を目指す人もいます。
 空き家バンクは、そうした人たちの受け皿にもなっていますし、農地付きの空き家を手に入れることも可能です。

空き家バンクでは、小規模の農地付き住宅を購入できるチャンスがある。このような本格的な田畑も購入できるようになれば、耕作放棄地の活性化にもつながるはずだが……。

 実は農地の売買は農業委員会の許可が必要で、手続きに時間がかかります。プロの農家として農業委員会に認めれないと、購入できないのです。

 しかし、空き家バンクのメリットの一つに、農地付き住宅が手に入りやすいということもあります。家庭菜園の延長で、農業をしながらのんびりとセカンドライフを送りたいという方は、一度空き家バンクをのぞいてみるといいでしょう。

 空き家バンクは自治体ごとにあるので、これまでは各自治体のホームページを探すしか方法がありませんでした。
 しかし最近では、各自治体の情報を一元化して、全国の空き家をワンストップで閲覧できるようになりつつあります。

(第2回につづく)

文・撮影◎三星雅人