建築木材大図鑑[第2回]
株式会社LIXILが運営しているリクシルオーナーズクラブ「住み人オンラインー住まいと暮らしのレシピ集」より抜粋してお届けします。
住まいに身近な木材を紹介する当連載。前回に引き続き、木材の選定から施工にいたる住宅プロデュースや、「開運!なんでも鑑定団」で木材関連品の鑑定を行う木材のプロ・村山元春さんのお話を交えながら、ケヤキを紹介していきます。
もくじ
力強い木材、ケヤキ
「ケヤキは日本を代表する木材で、“王様”にたとえられるほどです」と、村山さん。

ケヤキは広葉樹で、背の高いものは35mまで伸びます。ビルでいうと12階相当の高さです。
材木にした場合の特徴は「硬質」で「頑丈」。耐久年数はヒノキをしのぎます。くっきりとあらわれた木目と美しい光沢も魅力的で、風格が漂います。
丈夫で美しいことから、日本では古くから、建材や家具、食器、おもちゃ、船にいたるまで、さまざまな用途で愛用されてきました。なかでも、建物にケヤキを用いると堂々とした貫禄が生まれることから、お寺に欠かせない木材とされてきました。
たとえば、京都・清水寺の舞台は「桧(ひのき)舞台」として知られていますが、これを支える柱はケヤキ材。舞台下では、高さ13mの巨大な柱18本が支えています。
清水の舞台は建設以来、地震などで崩れたことがなく、強度と耐久性に優れていることがわかります。

大黒柱やテーブルに
一般民家でもケヤキは愛用され、その強固さから、大黒柱として定番の木材です。
村山さんは、ケヤキの大黒柱の力をこう語ります。
「その存在感に、誰もがつい触りたくなってしまう。そうすると、自然と家族が柱を囲むようになります。建物だけでなく、家族の中心にもなるんですよ」
大黒柱に限らず、ケヤキの無垢材を使ったテーブルにも、家族が集まる効果があります。
ケヤキは木質が緻密なので、水滴や食べ物のシミがつきにくく、ダイニングテーブルに最適。また、材質が硬く、筆記具の跡が残りにくいため、書斎テーブルにもぴったりです。
だれもが思い思いに使えるので、大きなケヤキのテーブルがリビングにあれば、家族が自然と集まるようになるというわけです。

村山さんも、かつて相談を受けたお宅でケヤキの座卓を提案したところ、たいへん気に入ってくれた事例があると話してくれました。
「このお宅は高台にあり、家主さんはリビングからの眺めをとても気に入っていました。そこで、『景色を楽しみつつ、くつろげるテーブルが欲しい』と相談を受けたのです。私が提案したのは、無垢のケヤキ材でつくった大きな座卓。テーブルを低くすれば上部に空間が生まれ、景色を堪能できるとともに、広々としてゆったりした雰囲気をつくれるからです」
当初、家主さんは「この低さでは使い勝手が悪いのでは?」と心配したそうですが、実際に使い始めてみると「景色を楽しみながらお酒を飲めるし、食後、ごろりと横になるのがとても心地いい」と喜ばれたそうです。
洋風インテリアとケヤキの合わせ方

ところで、ケヤキといえば和のイメージが強いため、近年のインテリアになじむのでしょうか。
村山さんは、「洋室にケヤキの内装材や家具を合わせるときは、おとなしい木目のものを選ぶといいですよ。派手な木目は“和”のイメージですが、控えめなケヤキならモダンな空間とうまく調和します」
一方、装飾的で木目の個性を味わいたい人には、無数の玉のような模様があらわれた玉杢(たまもく)がおすすめ。
「玉杢は、何百年もかけて育ったケヤキの大木にしか生まれません。その希少性から値が張りますが、ここぞという部位に入れると空間がいっそう華やぎます」
家づくりで木材を採り入れるときに、総じて言えることとして「玄関など、目立つところに高級で良質な材を利用するのがおすすめです」と村山さん。
梁や風呂場などの目立たない場所では、節のある手頃な材をつかう、といった具合に、適材適所の工夫で、コストを抑えながら、見栄えのいい木の住まいづくりを実現できます。
伝承していきたい「木材のある空間」
いろいろな場面で日本人に親しまれてきたケヤキは、土地ごとの風習に根付いてきました。
かつて、熊本県宇城市の海東(かいとう)地区では、狂わない材で嫁入り箪笥をつくるために、天井裏で100年間、ケヤキの板を寝かせて乾燥させたといわれています。
今日、ケヤキを始めとした国産の木材を住まいに採り入れることは、次の世代に日本文化を受け継ぐ楽しみにつながるといえます。
前述の大きなケヤキの座卓を購入した方は「傷がついたら、削りなおして大切につかいたい。家族が増えたら、座卓からテーブルにつくり直すのもいいかもしれない」と語っていたそうです。
次回は、日本を代表する高級木材のヒノキを取り上げます。
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お話を伺った方

村山元春さん
株式会社マテリアル取締役。東京・木場の材木問屋に生まれる。デザイン会社に就職後、家業の新規事業「日曜大工用のラワン材の棚板製造販売」を手伝うべく転職。その後、東急ハンズをはじめとするホームセンターにて、材木売り場のプロデュースなども手がける。現在は一般住宅から店舗・オフィスまで幅広くプロデュース。
著書『185種の木材辞典』(誠文堂新光社)、テレビ出演『開運なんでも鑑定団』(木の鑑定士)ほか。
文◎井口理恵 撮影◎加々美義人 画像提供◎Shutterstock.com