上生菓子で味わい感じる京都の春爛漫

上生菓子で味わい感じる京都の春爛漫

暮らしに生かす甘い和の生活[第2回]和菓子で季節をめでる(亀屋良長編)

株式会社LIXILが運営しているリクシルオーナーズクラブ「住み人オンラインー住まいと暮らしのレシピ集」より抜粋してお届けします。

春夏秋冬のうつろいを目と舌で楽しめる「和菓子」。創業享和3年(1803年)という京菓子司「亀屋良長本店」の和菓子はどのように生まれていくのでしょうか。8代目当主、吉村良和さんが上生菓子をつくる現場を訪れました。

和菓子は「生菓子」「半生菓子」「干菓子」に分けられる

お店の2階にある工房でつくられた和菓子が次々と店頭に並ぶ。
お店の2階にある工房でつくられた和菓子が次々と店頭に並ぶ。

 和菓子は、水分量によって大きく3つに分かれます。
 水分量が30%以上のものが「生菓子」で、しっとりとした和菓子で草餅、蒸し饅頭、羊羹(ようかん)などです。
 そして水分量が10%以上のものは「半生菓子」で、最中(もなか)など、10%以下のものは「干菓子」で乾き物と呼ばれる落雁(らくがん)やボーロ、飴などがそうです。

 生菓子はさらに、「上生菓子」と「朝生菓子」に分かれます。
 上生菓子は、特に砂糖をたっぷり使う求肥(ぎゅうひ)や羊羹(ようかん)などを指し、朝生菓子は、日常の茶請けとして当日中に食べる生菓子を指します。大福やみたらし団子などがこれに当たります。

 上生菓子は、細工を施して季節を表現するものが多く、茶の湯や進物として使われることが多い和菓子です。

社長自らがつくる春の絶品上生菓子

亀屋良長8代目当主の吉村良和さん。一連の動作がなんとも滑らかで美しい。
亀屋良長8代目当主の吉村良和さん。一連の動作がなんとも滑らかで美しい。

 亀屋良長の上生菓子の工房は本店5階にあります。使い捨ての帽子に白衣を着用して2つの扉を通って現場に入ります。
 アルコール消毒はもちろん、徹底的に衛生管理が施された工房。室内のすべての道具がきちっと整頓されています。

 上生菓子は、練り切りやきんとんといった餡を生地にしてつくられます。吉村社長が扱っているのは、求肥を加えた白餡を主原料とする練り切りです。ピンク色の色粉を加えて、桜をイメージしています。

熟練の技で、次々とお菓子に命が吹き込まれていく。
熟練の技で、次々とお菓子に命が吹き込まれていく。
完成した練り切りの桜。はかない美しさを醸し出す。季節商品(370円)。
完成した練り切りの桜。はかない美しさを醸し出す。季節商品(370円)。

 丸く握ったピンク色の餡玉の中心に、白い餡玉を押し入れて形を整えていきます。これは、桜の中心に向かってグラデーションをつけるための一手間です。
 そして、指先で柔らかく抑えることで花びらをつくり、「三角ヘラ」を使って5枚に仕上げていきます。蕊(しべ)の真ん中に、京都では「におい」と呼ばれる丸く黄色い蕊を乗せて完成。
 ふくよかな色合いは、江戸時代からのデザインを引き継ぎ、京都の春を演出しています。

女の子の成長を願う桃の節句に欠かせない和菓子とは

素材には、こだわった丹波の小豆や近江の米を使用。和菓子はシンプルだからこそ、一つひとつの素材の質が重要になるのだそう。
素材には、こだわった丹波の小豆や近江の米を使用。和菓子はシンプルだからこそ、一つひとつの素材の質が重要になるのだそう。

 次に取り掛かったのは、「ひちぎり」。京都では、3月の桃の節句には欠かせない和菓子です。平安時代に宮中の儀式の祝儀に用いられた、戴き餅(いただきもち)に由来するといわれています。

完成したひちぎり。食べるのがもったいないほどの繊細な仕上がり。季節商品(370円)。
完成したひちぎり。食べるのがもったいないほどの繊細な仕上がり。季節商品(370円)。

 まず形にするのは、黄緑色の練り切り。形を整えた後は、端の一部を手で引きちぎって土台は完成です。これがひちぎりならではの印。別にピンクと白の餡をこして、桜の花びらのような形状の餡をつくります。丁寧に箸でまあるくふんわりと土台に乗せていき、完成させます。

 コツはあまり複雑にしないこと。また、和菓子はあくまで食べ物。美味しくみえるというものもポイントの一つで、見た目は食欲をそそりつつ、自然の美しい造形美をどれだけ感じさせられるかが、職人の腕の見せ所なのです。
 シンプルな方が、形も色もごまかしが効かず、手技の差が出るのだとか。

定番の春の和菓子にも
日本の東西で大きな違い

桜の花びらと桜葉の塩漬けが組み合わされた定番中の定番「桜餅」。季節商品(300円)。写真提供:亀屋良長
桜の花びらと桜葉の塩漬けが組み合わされた定番中の定番「桜餅」。季節商品(300円)。写真提供:亀屋良長
ひちぎりと薄茶を組み合わせて。
ひちぎりと薄茶を組み合わせて。

 今回は、春の上生菓子を紹介しましたが、日常に気軽に楽しめる「朝生菓子」でも季節を感じられるものはたくさんあります。

 例えば、花見団子や柏餅などがそうです。
 花見団子は、江戸時代から花見には欠かせない和菓子で、ピンク、白、黄緑の3色の組み合わせは、桜のつぼみ→桜の花→葉桜という、桜の木の変化を表現しているという説もあります。
 季節への感性が高い、日本人らしい表現と言えましょう。

 また、桜餅は、関東と関西で形が異なります。餡が生地に包まれ、塩漬けの桜葉で包むという点では同じですが、生地が大きく異なります。
 関西では、道明寺粉というもち米を蒸して乾燥させた干し飯(ほしい)を粗く引いたものを使います。
 西へ東へお出かけの際には、その形の違いを確かめてみるのも面白いかもしれません。

※お菓子はすべて税抜き価格(2020年1月現在)

文・コーディネート◎小倉千明
撮影◎宇野真由子

●亀屋良長 本店

●亀屋良長 本店

享和3年創業の京都にある老舗和菓子店。伝統を守りつつも、「Satomi Fujita by KAMEYA YOSHINAGA」や「吉村和菓子店」などの異なる目的の和菓子ブランド立ち上げ発信するなど、伝統だけに頼らない和菓子の魅力を精力的に追求し続けている。

〒600-8498
京都市下京区 油小路西入柏屋町17-19
電話:075-221-2005
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