自ら設計し、手作りでオープンカーと自身の隠れ家を実現

自ら設計し、手作りでオープンカーと自身の隠れ家を実現


シリーズ 男のリフォーム 「ガレージ」本格派のこだわり 第3回

株式会社LIXILが運営しているリクシルオーナーズクラブ「住み人オンラインー住まいと暮らしのレシピ集」より抜粋してお届けします。

憧れのガレージライフ。けれど、なかなか家族には理解されず、リフォーム時に提案しても理解が得られず、資金的にもOKが出ないために後回し、ということがよくあります。そんな難関を乗り越えて、念願のガレージを完成させた方がいらっしゃいます。千葉県にお住まいの久我敏徳さんです。なんと、自身で2×4のガレージを設計し、自らの手で建ててしまいました。そんな久我さんに、どういうきっかけでガレージを建て、どのようにガレージライフ・プロジェクトを実現したのかをうかがいました。

奥様を説得して夢をかなえた

 久我さんは、千葉県睦沢町に代々続く広い敷地の一軒家にお住まいです。母屋の隣にクルマを置ける駐車スペースがあり、奥様のクルマとご自分の通勤用のミニ・クラブマン、そして長年の相棒ともいえるマツダ・ロードスターを置いていらっしゃいました。

「母屋を建て替えるという話があったときに、そこにビルドインのガレージを作ろうか、という話が出ました。それも悪くはないなとも思ったのですが、自分のロードスターを整備するスペースが欲しかったんですね。ジャッキアップはもちろんのこと、できればロードスターの屋根(ハードトップ)の脱着もしたかったんで、上げ下ろしをするためのリフトなども導入したかった。そのため、天井の高さが欲しかったこともあって、いっそのことロードスター専用のガレージを増設しようと思ったのです」

 家族のクルマとの共用スペースではなく、自分のクルマだけの専用ピットを作ることは、誰しも憧れるものですが、現実にはなかなかご家族の理解が得られないもの。久我さんの場合、どうやって説得をなさったのでしょうか。

「幸いにして、うちは趣味のクルマに対して、家人の理解があるほうなのですが(笑)、今まで駐車スペースが共有だったことで感じたデメリットを解消できるという話をしました。例えば、家人のクルマの出し入れが楽なこと。どうしても2台並んでいると、自分のクルマの出し入れに気を遣いますよね。それから、庭の奥まったところに扉付きのガレージがあれば、ご近所や外を通りかかる方の目を気にせずにクルマいじりができるし、整備途中でも、食事に呼ばれたときなどに、そのまま放りっぱなしで戻れることなど。クルマ好きの友人たちが集まることがありますが、家人の手を煩わせずに友人たちを歓待できることなども説明しました」

 日常のメンテナンス、たとえばオイル交換なども、どうしても臭いがします。久我さんのお宅の敷地には、ご先祖が蚕を飼っていた養蚕小屋がありました。その一部を取り壊して、母屋から離れた場所にロードスター専用のガレージを建てることで、奥様の同意を取り付けることに成功、一部残した養蚕小屋は、さまざまな荷物の収納スペース兼ご自分が通勤に使うミニの駐車スペースにすることになりました。

「扉付きのガレージにすると、人の目が気にならなくなります。扉があると外からは見えませんので、プライバシーが保たれます。工具などもたくさん置けますし、クルマのポスターや絵などを飾ることも、クルマ以外の趣味のものをディスプレイして楽しむこともできます」

 実際、久我さんのガレージには、クルマを整備するための工具を置くツールボックスや作業台、パーツなどをストックしておく棚が置かれ、壁には大好きなイラストレーター「Bow。」さんや渡邊アキラさんのイラスト、これまで自分が使ってきたイタリア製のステアリングなどが飾られています。奥の壁には、自転車も2台保管され、ゆっくり座って本を読んだりコーヒーを飲んだりできるソファも置かれています。

既製の組み立てキットでは広さが足りない

 このガレージを、久我さんはご自分で設計し、施工も基礎工事以外は自分の手で行ったそうです。木造で英国の郊外にありそうな雰囲気のガレージです。車雑誌などでも、よくこういったガレージのキットを見かけますが、久我さんはなぜ敢えてご自分で設計・施工をなさったのでしょう?

「ガレージを作ろうと決めたときに、まずは東京・木場にある展示場に足を運んだんです。けれど、ひとつだけ、どうしても譲れないポイントがあって、キットでは自分が理想と擦るガレージが作れなかったんです」

 久我さんがどうしても譲れないと思ったポイントは、なんと「サイズ」でした。

「展示場で見たガレージは、どれもサイズが小さかったんです。私が考えていたのは、第一に奥行きがあることでした。クルマをガレージにしまっておくだけではなく、中で整備がしたかったので、とくに前後に余裕が欲しかったんです」

 久我さんのロードスターは全長4m弱と決して大きな車ではありません。けれど、中で整備をするとなると、クルマのまわりに1.5mは余裕が欲しいところ。市販のガレージキットでは、ゆとりが得られないので、自らの手で、間口7.2m、奥行5.4mの大き目のサイズで仕上げました。

「工具や座れるソファを置くスペース、開口部が広いことなども希望していたので、既製品のキットでは叶えられない部分がたくさんあって、それならいっそのこと、自分で作ってみるか、と(笑)」

プラモデル製作感覚でガレージを建てる

 久我さんは、機械設計のお仕事をなさっていることもあり、3DCADソフトなども扱い慣れているそうです。けれど、実際にプランを図面にしていくのは大変だったのではないでしょうか。

「CADのソフトの知識はもちろん必要ですけれど、それ以外はそうでもありませんでした。建築の知識はほとんどなかったのですが、2×4(ツー・バイ・フォア)に関するDIYの本を一冊買って勉強しただけです、じつは、2×4工法というのは、それぞれの部品をきちんと作ってあれば、あとは組み立てるだけでいいんです」

 まるでプラモデルでも作っているような雰囲気でさらりとおっしゃる久我さんですが、実際の設計や施工はどうだったのでしょうか。
次回はそういった細部の話を伺っていきます。

(第4回に続く)

お話を伺った方

久我敏徳さん

久我敏徳さん

若いころからのクルマ好き。マツダ・ロードスターに惚れ込み、奥様を説得して、惚れ込んだこのオープンカーのためにガレージを自らの手で建ててしまった。ガレージは趣味の空間でもあり、秘密基地でもあり、クルマ好きの友人らとの語らいの場でもある。

文◎坂井淳一 写真◎末松正義