「生前贈与(せいぜんぞうよ)」はその名のとおり、生きているうちに財産を贈与することをいいます。
財産を「誰に」「どの程度」贈与するのか決まっている場合は、相続税対策として大きなメリットがある贈与方法です。
本記事では、生前贈与の詳細や、生前贈与が適している方について説明します。
家族に財産を残す方法の一つ「生前贈与」とは?
相続税対策として有効な生前贈与が、どのような贈与方法なのか、もう少し詳しく説明していきます。
生きているうちに財産を贈ること
冒頭にも書いたように、生前贈与は「生きているうちに財産を贈与すること」をいい、財産を残す方法の一つです。
そして生前贈与には、次のようなメリットがあります。
- 相続税対策ができる
- 遺言書よりも手続きが簡単
- 財産を亡くなる前に贈与しておくことで、相続トラブルの防止につながる
- 特定の人に特定の財産を残せる
上記を見てわかるように、生前贈与は贈与者(財産を贈る側)と贈者(財産を受ける側)の両者にとってメリットがある贈与方法です。相続税対策をしつつ、生きているうちに少しずつ財産を移転していけるので、財産が多くある方は生前贈与を利用するケースがよく見られます。
しかし、生前贈与は全く税金がかからないわけではなく、基本的に「贈与税」という税金がかかります。贈与税の課税方式には、大きく分けて「暦年課税」と「相続時精算課税制度」の2種類あります。
暦年課税は、1年間で受け取った財産の合計額が基礎控除額の110万円を超えた場合、超過分に対して贈与税が課税される制度です。年間で110万円以下の贈与については課税されず、申告も不要です。
相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母または祖父母、18歳以上の子どもや孫への贈与で利用できる制度です。この制度を利用すれば、2,500万円までの贈与税が非課税となります。
ただし相続時精算課税制度を利用する場合、相続時には、相続財産に生前贈与した分も合わせた相続税を納税しなければなりません。一見節税のようですが、課税の先送りだと覚えておきましょう。
相続との違い
「財産を誰かに渡す」という意味では生前贈与と相続は同じですが、生前贈与が生きているうちに財産を贈るのに対し、相続は財産を渡す人が亡くなったあとに財産を相続人が引き継ぐことを指します。
生前贈与と相続のそれぞれの特徴を見てみましょう。
生前贈与 | 相続 | |
---|---|---|
財産を渡すタイミング | 贈与者の生存中 | 被相続人の死後 |
税金 | 贈与税 | 相続税 |
回数 | 制限なし | 1回かぎり |
課税対象者 | 贈与を受けた人 | 相続人 |
手続き時期 | 贈与の翌年の2月1日~3月15日 | 被相続人の死後10か月以内 |
表を見てわかるように、財産を渡すタイミングのほか、回数や課税対象者、手続き期間が異なります。
なお、同じ財産で贈与税と相続税の税率を比較すると、贈与税の方が高くなります。
しかし、生前贈与には回数制限がないので、生前贈与を検討している方は、暦年贈与を活用しながら計画的な資金移転をしておきましょう。
生前贈与が適している方
メリットが多い生前贈与ですが、相続発生前3年以内の贈与には相続税がかかることや、定期贈与として贈与税がかかる可能性があるなど、デメリットもあります。
では、生前贈与が適しているのは、どのような方なのでしょうか。
早いうちから財産を贈与したい方
早いうちから財産を贈与しておきたい方は、生前贈与が適しています。
贈与税は相続税と比較して税率が高くなりますが、暦年贈与をして年数をかけることにより、節税の効果が得られるからです。
ただし、被相続人の死亡日からさかのぼって、3年以内に行われた相続人に対する生前贈与については、生前贈与はなかったものとして、財産に贈与時の価額加算をして相続税が計算されます。この制度を「生前贈与加算」といい、亡くなる直前に贈与を始めても相続税の負担は下げられないので注意が必要です。
また、住宅取得等資金の贈与や、配偶者控除で贈与された金額については、生前贈与加算の対象となりません。
子や孫などが多い方
贈与税の支払い義務があるのは贈与を受ける側で、贈与する側に税金は課せられません。
子どもや孫など、贈与する相手が複数いるのであれば、その数が多いほど暦年贈与のメリットを活かして、効果的に財産を移転することができます。
例えば、子ども3人孫5人の合計8人それぞれに110万円の贈与をしていけば、1年間に880万円、2年間で1,760万円を贈与できることになります。
110万円という金額だけを見ると、相続税対策としては先が長く感じるかもしれません。しかし、複数人へ年数をかけて少しずつ贈与すれば、大きな節税効果を得られます。
特定の人に特定・多くの財産を残したい方
特定の人や特定の時期に財産を渡したい方にも、生前贈与が適しています。
遺言書がない相続では、相続人全員による遺産分割協議が必要です。さらに、遺言書があったとしても、必ずしもその通りに相続されるとは限りません。生前贈与であれば、特定の財産を特定の相続人へ確実に財産を移転することができます。
「生前贈与」まとめ
生前贈与は、生きている間に財産を贈与する方法です。基本的には贈与税が発生しますが、生前贈与を非課税にする方法はいくつかあることがわかりました。
そして生前贈与と相続の大きな違いは、財産を渡すタイミングです。税率は相続税より贈与税の方が高くなりますが、計画的に資金移転をすることで節税の効果を得ることができます。
ご自身の状況から、どの方法が適しているのかを検討してみてください。