建築基準法の接道義務を満たしておらず、建て替えができない建物を「再建築不可物件」といいます。相続した不動産や所有する不動産が再建築不可物件であると知ったとき、売れるのか不安に思っている方も多いでしょう。
再建築不可物件は必ずしも売却しづらいわけではなく、売れるかどうかは売却方法次第です。そこで本記事では、再建築不可物件が売りづらいと言われる理由をはじめ、売却のポイントや再建築可能物件にする方法をお伝えします。
再建築不可物件の売却でお悩みの方はぜひ、参考にしてください。
- 再建築不可物件は建て替え不可、修繕費の高さ、住宅ローンの審査が通りづらいことが売却困難の主因である。
- 売却時のポイントは、隣地所有者への声かけや買取業者の利用、再建築可能な土地への変更が挙げられる。
- 物件の状況に応じた売却方法を選べば、可能な限り高値で売却することが可能。
目次
再建築不可物件が売却しづらい3つの理由
再建築不可物件が売却しづらい理由は、3つあります。
- 建て替えができない
- 修繕費用がかさむ
- 住宅ローンの審査に通りづらい
これらはどれも、買い手にとってデメリットやリスクになる理由です。
売却のポイントをお伝えする前に、まずは「再建築不可物件が売れづらい理由」を解説していきます。
理由1:建て替えができないから
読んで字のごとく、再建築不可物件は建物の再建築、つまり建て替えをすることができません。今ある建物を壊してしまったら、更地にするほかなくなるのが、売却しづらいと言われる大きな理由です。
建物を再建築できない理由には、建築基準法に「接道義務」という決まりがあることが関係しています。次の2点を満たしていない土地は接道義務を満たしておらず、建物の再建築はできません。
- 建物の敷地が建築基準法が定める幅員4m以上の道路に2m以上接していること
- 接している道路の幅員(道幅)が4m以上あること
「なぜ今は建物があるのに、建て替えはできないのか」と、疑問に思うでしょう。接道義務が定められたのは、建築基準法が制定された1950年(昭和25年)なので、それ以前に建てられた建物は、接道義務を満たしていなくても建築できたのです。
既存建物に関しては基準を満たしていなくても解体する必要はなく、建築確認申請が不要なリフォームやリノベーションであれば認められています。しかし2025年4月(予定)から、建築基準法の改正によって、2階建て以上または延べ面積200㎡超の建築物は、建築確認の対象になると決まりました。
改正によって柱や梁(はり)に触れるスケルトンリノベーションができなくなれば、再建築不可物件は今よりさらに売れづらくなると予想されます。改正の詳細や施行日については、国土交通省のウェブサイトをご確認ください。
理由2:修繕費用がかさむから
再建築不可物件が売れづらい理由には、修繕費の高さも挙げられます。
再建築不可物件が建てられたのは、1950年(昭和25年)または都市計画法が定められた1968年(昭和43年)以前です。2023年時点で築55年を越えているため、購入後に数十年間住めるように修繕するためには、大きな費用がかかります。
さらに、再建築不可物件は前面道路または玄関までの通路部分が狭いので、追加料金がかかる可能性が高く、一般的な工事よりも費用が高くなるでしょう。
理由3:住宅ローンの審査に通りづらいから
再建築不可物件は担保価値が低く、住宅ローンの審査に通らない可能性が高いです。住宅ローンを利用できない場合は、金利が高いノンバンクや銀行のフリーローンを利用して融資を受けるしかありません。
そのため再建築不可物件を購入できるのは、キャッシュで購入できる人か、高い金利を払ってでも買いたいという人に限られます。再建築ができる通常物件と比べて買える人が限られてしまうため、なかなか買い手が見つからないのです。
再建築不可物件の売却相場
再建築不可物件の売却相場は、通常物件の5〜7割ほどです。不動産会社や買取専門業者に買い取ってもらう場合はさらに低くなり、5割以下になる可能性もあります。
前章で説明したように、再建築不可物件には買い手にとってデメリットやリスクになり得る部分が多くあるからです。市場相場よりも価格を下げなければ、買い手が見つかりづらいのが現状です。
再建築不可物件を売却するポイント
再建築不可物件の売却相場は5~7割ほどですが、売り方によっては少し高く売れることや、買い手がスムーズに見つかることもあります。そのための売却のポイントは次の3つです。
- 隣接地の所有者に声をかけてみる
- 買取を検討する
- 再建築可能な土地にする
詳しく説明していきましょう。
隣接地の所有者に声をかけてみる
再建築不可物件を売却するときには、まずは隣接地の所有者に声をかけてみましょう。1950年または1968年以前に建てられた家であれば、同じように再建築不可物件の可能性があり、買い取ることで再建築可能物件にできる可能性があるからです。
また、接道義務を満たしていたとしても、隣接地を買い取ることで所有地を広げられるので、買い取るメリットがあります。ただし個人間での取引にはトラブルのリスクがあるため、不動産会社に相談してから声をかけしましょう。
買取を検討する
仲介売却で買い手が見つからないときや、売却を急いでいるときには買取を検討しましょう。買取価格や条件に双方が納得すれば、1〜2週間ほどで物件を現金化できます。
ただし、先ほどもお伝えしたように、買取相場は市場価格の5割以下です。条件によっては5~7割ほどで買い取ってもらえる可能性もありますが、悪質な業者にあたると安値で買い叩かれる恐れもあります。
買取を利用するときには、信頼できる不動産会社や買取専門業者に依頼しましょう。
再建築可能な土地にする
再建築不可物件は、必ずしも建て替えができないわけではありません。接道義務を満たせば、再建築可能が認められる可能性もあります。
再建築ができる土地になれば、買い手が見つかりやすくなるのはもちろん、市場価格に沿った金額での売却が望めます。では、再建築可能な土地にするには、どのような方法があるのでしょうか、次章で詳しく説明します。
再建築不可物件を再建築できるようにする方法
再建築不可物件を再建築ができる土地にするためには、次のような方法があります。
- セットバックをする
- 隣地の一部を買い取る
- 「第43条第2項第2号」の許可を受ける
ポイントとなるのは「接道義務を満たす」「市区町村から許可を受ける」という点です。
詳しく見ていきましょう。
セットバックをする
再建築できない理由が「接している(建築基準法上の)道路の幅員(道幅)が4m以上あること」である場合は、セットバックをすれば再建築ができる土地になる可能性があります。
セットバックとは「前面道路と敷地の境界を、道路の中心線から2mの位置まで後退させること」です。たとえば道路の中心線から敷地までの距離が1mしかないのなら、敷地の境界線から1m分敷地を後退することで接道義務を満たせます。
隣地の一部を買い取る
他の方法と比べて実現性が低い方法ではありますが、隣地の一部を買い取ることで再建築ができるようになる可能性があります。
建物の敷地が(建築基準法上の)道路に2m以上接していないのであれば、足りない分の間口を隣地から買い取れば接道義務を満たせるからです。たとえば、敷地に道路が1.5mしか接していないのであれば、間口0.5m分だけ隣地の敷地を買い取るイメージです。
ただしこの方法は、隣地所有者との関係性や、隣地の大きさなども大きく影響します。個人で動かず、必ず不動産会社に相談しましょう。
「第43条第2項第2号」の許可を受ける
ここまで紹介した2つの方法が有効なのは、幅員4m以上ある「建築基準法上の道路」の場合のみです。もし前面道路が公的に「道路」として認められていないのであれば、セットバックをしたり、隣地から敷地を買い取ったりしたとしても、再建築不可物件のままである点に注意してください。
ただし、住宅の前面道路が建築基準法上の道路ではない場合でも、自治体の建築審査会から「第43条第2項第2号」の許可を受ければ、再建築ができるようになります。
建築基準法43条は、これまで何度も説明してきた接道義務のことです。次のような条件を満たしていれば、救済措置として再建築が許可される可能性があります。
【43条但し書き許可の条件】
- 敷地の周囲に広い空き地がある
- 安全性や防火性が確保できている
- 建築審査会からの同意を得ている
これらの判断は素人では難しいので、まずは条件に当てはまるかどうかを、役場の「道路管轄」や「建築指導課」に相談してみましょう。
再建築不可物件も売却は可能!土地の状況に応じて対応の判断を!
再建築不可物件は買い手にとってデメリットやリスクがあるため、売却相場は市場価格の5~7割ほどです。しかし、その土地や建物に応じた売却方法を選択すれば、できるだけ高く売却できるでしょう。
ただし、2025年4月の建築基準法改正後は工事内容が制限されるため、今よりももっと売れづらく、価格も下がってしまう可能性があります。再建築不可物件の売却を検討しているのであれば、建築基準法改正前に動くことをおすすめします。
どのような売り方が物件にとって最良なのか、不動産会社と相談のうえ検討しましょう。