賃貸経営をしていると
「貸している家に自分が住むことになった」
「老朽化しているから建て替えたい」
「ルールを守ってくれない住人がいる」
などの理由で、賃借人に退去してもらうこともあるかもしれません。
住人に立ち退きを相談するときには、オーナー都合であれば“立ち退き料”を支払うのが一般的ですが、場合によっては、支払わなくてもいいケースもあります。
そこで本記事では、立ち退き料の相場をはじめ、支払いが必要なケース・不要なケース、立ち退き料を支払う前に知っておきたい内容をお伝えします。立ち退きでは大きなお金が動くので、賃貸経営を始める前に基礎知識を頭に入れておきましょう。
目次
オーナー(大家)が賃借人に支払う立ち退き料の相場
物件のオーナー(賃貸人)が部屋を借りている人(賃借人)に支払う立ち退き料の相場は、家賃の6か月〜12か月分です。家賃が月10万円の物件ならば60〜100万円ほどになります。
立ち退き料の内訳には次のような費用が含まれており、これらを含めた額を賃料の数か月分として支払います。
- 引っ越し費用
- 新居の契約に必要な仲介手数料、敷金、礼金
- 慰謝料、迷惑料
- 借家権の補償
ただし6か月〜12か月分はあくまで相場で、実際にどのくらいの立ち退き料を支払うのかはオーナー次第です。6か月分以下の場合もあれば12か月分を越える場合もあり、正当事由によって差が出るでしょう。ここでいう「正当事由」とは、貸主が賃貸借契約の解約を申し入れるために必要な理由のことです。
なお、退去勧告は原則として期間満了の1年前、遅くとも6か月前までに行わなければなりません。これは「借地借家法第27条」によって定められています。
立ち退き料の支払いが必要になる3つの場面
立ち退き料が必要になるのは、主に次のような3つの場面です。
- オーナー(大家)都合で退去を求めるとき
- 建て替えをするとき
- 再開発によって立ち退きが必要なとき
詳しく見ていきましょう。
1.オーナー(大家)都合で退去を求めるとき
オーナー都合で退去を求めるときには、立ち退き料を支払うのが一般的です。
具体的には次のような理由が予想されます。
- 転勤期間中は貸し出す予定だったが戻る期間が早まった
- 貸している部屋に自分が住むことになった
- 貸している部屋に親族または知人が住むことになった
これらはすべてオーナー都合となるため、立ち退き料の支払いが必要になるでしょう。
2.建て替えをするとき
建物が老朽化してくると、建て替えが必要です。建て替えは住人の安全性を確保する目的で行うものですが、オーナー都合に該当するため立ち退き料を支払うのが一般的です。
ただし、建て替えによる退去は正当事由が強いので、賃借人との交渉によって立ち退き料を低くすることもできるでしょう。
3.再開発によって立ち退きが必要なとき
賃貸物件がある地域で再開発が行われるときにも、立ち退き料を支払うのが一般的です。再開発は建物の老朽化のように切羽詰まった状態ではないので、正当事由としては弱くなり、立ち退き料を高くするように交渉される可能性があります。
しかし、都市開発が行われるのであれば、行政から土地所有者に対して「都市計画補償金」が支払われるため、そこから立ち退き料を捻出することもできるでしょう。
立ち退き料の支払いが不要な3つの場面
オーナー都合や再開発などは立ち退き料の支払いが必要ですが、次のような理由で立ち退きを相談するのであれば、立ち退き料を払うことなく退去を相談できる可能性があります。
- 賃借人が契約違反をしたとき
- 定期建物賃貸借契約のとき
- 建物に危険性があるとき
- 貸借人に居住の必要性が認められないとき
それぞれ見ていきましょう。
1.賃借人が契約違反をしたとき
賃借人が家賃の滞納や無断転貸などの契約違反をしたときには、オーナーは立ち退き料を支払うことなく賃貸借契約を解除して退去させることができます。
ただし、強制退去させられる家賃の滞納期間は3か月が目安なので、1〜2か月滞納しただけでは難しいのが現状です。
2.定期建物賃貸借契約のとき
契約期間満了後に更新をしない「定期建物賃貸借契約」で契約していれば、理由にかかわらず立ち退き料は不要です。ただし立ち退き料が不要なのは期間満了時で、大家都合による途中解約は原則認められていません。
話し合いによって退去に応じてもらえる可能性もありますが、その場合は立ち退き料の支払いが必要です。もし転勤期間や再開発時期が決まっているのなら、定期建物賃貸借契約で退去時期を定めておくと良いでしょう。
3.建物に危険性があるとき
前章では「建て替えはオーナー都合になり、立ち退き料の支払いが必要」とお伝えしました。しかし建物の耐震性に問題がある場合や、軟弱地盤に建物が建っているなど、重大な危険性がある場合は、例外的に立ち退き料を払うことなく退去してもらえる可能性があります。
しかし、立ち退き料が不要になるのは、ごく稀なケースです。建て替えによる立ち退きでは、立ち退き料が必要になると考えておきましょう。
4.貸借人に居住の必要性が認められないとき
オーナー都合や再開発などに該当していても、貸借人に居住の必要性が認められないときには、立ち退き料の支払いは必要ありません。たとえばセカンドハウスや別荘など、借りている部屋を住居としていない場合などです。
立ち退き料を支払う前に知っておきたいこと
オーナー都合や再開発などで退去を求めるのなら、家賃の6か月〜12か月分の立ち退き料が必要だとお伝えしてきました。退去を求める理由である正当事由は法律で定められていますが、立ち退き料の支払いに法的な決まりはありません。
その点を踏まえ、最後に、立ち退き料を支払う前に知っておきたいことを2つお伝えします。
立ち退き料に法的な支払い義務はない
立ち退き料の支払いに、法的な義務はありません。支払い有無と支払額は、オーナーが自由に決めることができます。
しかし、本記事で紹介したようなオーナー都合や再開発で退去を求めるときに、無償で退去してもらえることは稀です。「立ち退き料が払われないのなら、出ていかない」と、退去を拒否される可能性もあります。
実際に退去や立ち退き料の支払いをめぐって、裁判沙汰になった事例も多くあります。そのためトラブルに発展する前に、お願いのような形で立ち退き料を支払うのが通例になっています。「支払い義務はない=支払わなくても良い」ではない点を覚えておきましょう。
立ち退き料は交渉できる
立ち退き料には支払い義務がないので、もちろん立ち退き料の規定もありません。相場は家賃の6か月~12か月分ですが、少しでも負担を抑える方法はないのかと気になる方も多いはずです。
賃借人に交渉して立ち退き料を抑えるには、次のような方法があります。
- 退去時の原状回復を不要にする
- 敷金を返金する
- 住み替え先の物件を提供する
- 退去までの賃料を無償化する
- 建て替え後の再入居を確約する
立ち退き料を抑えるコツは、退去にあたって「できるだけ賃借人の負担を軽減すること」です。金銭的、精神的な負担が軽減されれば、立ち退き料を相場より低くしても退去に応じてもらえる可能性があります。
戸数が多くなるほど立ち退き料の負担も大きくなるため、少しでも抑えられれば全体的な費用を軽減できるでしょう。
ただし、立ち退き料の支払いは必要経費になりますが、敷金の返金や賃料の無償化は経費として認められません。住み替え先の物件提供や再入居なども、入居後の家賃決めでトラブルになるリスクもあるため、避けたほうがいいケースもあります。
目先の費用負担だけではなく、経営としてどちらが損失が少ないのかまでしっかりと検討しましょう。
立ち退き料の相場は家賃の6か月〜12か月分!不安な方は専門家に相談を
オーナー都合や再開発などで支払う立ち退き料は、家賃の6か月〜12か月分が相場ですが、法的に決まっているわけではありません。支払い有無はもちろん、支払額もオーナーしだいです。
しかし立ち退き料を支払わずに退去を願うのは、あまり現実的ではありません。立ち退き料をめぐってトラブルになる恐れもあるため、立ち退き料はかかるものとして考えておくことをおすすめします。
立ち退き料の詳しい決め方や負担を抑える方法などは、不動産会社と相談しながら考えてみてください。