借地権とはどんな権利?借地権付き建物のメリット・デメリットは?

抵当権とは?登録や抹消の手続きや売却時の注意点についてわかりやすく解説

監修者
吉田 宏
吉田 宏(株式会社SUMiTAS 代表取締役社長)
  • 二級建築施工管理技士
  • 宅地建物取引士
  • 測量士補
  • 賃貸不動産経営管理士

住まい探しをしていると、不動産ポータルサイトなどで「借地権」や「借地権付き建物」という言葉を目にしたことがあるかと思います。

売買物件を探しているのに「借地権」という文言を目にして戸惑ったのではないでしょうか?この借地権ですが、不動産をよく知っている方でも借地権の売却や借地権の相続について十分に理解している方はあまり多くありません。

この記事では、借地権をテーマに、売却方法や相続などについて解説しています。借地権に関するポイントを理解していただくことで、現在所有している・今後所有する予定の借地権に関する考え方のポイントを整理していきます。

借地権とは?

借地権は地代を支払って土地を借り、その土地に建物を建てる権利のことで、地上権と賃借権からなります。地上権は、他人の土地で不動産を所有するための権利で、地主の承諾を得なくても第三者に譲渡・賃貸を行うことが可能です。

例えば、鉄道の線路や道路には地上権が設定されており、土地の所有者の承諾が無くても賃借人は補修作業を行うことができます。

一方の賃借権は、賃貸借契約に基づく賃借人(居住者)の権利のことで、居住の対価として賃料・地代を支払う義務を負うものです。賃借権は、その物件のオーナーや地主の承諾がないと譲渡・転貸することはできません。

借地権の種類

借地権は2種類あり、「借地法(旧法)」と、1992年に施行された「借地借家法(新法)」です。ここでは、借地法(旧法)と借地借家法(新法)それぞれを解説します。

借地法(旧法)のポイント

借地法(旧法)の特徴は、借地の契約期限は決まっているものの、更新によって期限を延長し、半永久的に賃借できる点にあります。
詳細は以下の表を参照してください。

契約時の存続期間最初の更新後の存続期間
鉄骨造・鉄筋コンクリート造など60年30年
木造建物など30年20年

当事者間の合意があれば、これよりも長い期間を設定することも可能です。

借地借家法(新法)のポイント

借地借家法(新法)の契約形態は5種類に分かれており、これまでの普通借地権に加えて、定期借地権という考え方が加わりました。
詳細は以下の表を参照してください。

  • 普通借地権
    建物の構造に関わらず当初30年の存続期間で、更新期間は初回更新時が20年、それ以降は10年(当事者間の合意による設定期間の変更は可能)となります。
  • 定期借地権 (一般定期借地権)
    住宅用に土地を賃借するもので、契約の更新はありません。契約期間は50年以上で、所定期間が経過後は更地にして地主に土地を返却する必要があります。
  • 事業用定期借地権
    事業用(店舗や商業施設等)で土地を借りる場合の契約形態で、一部であっても居住用として利用することはできません。存続期間は10年以上50年未満で、契約終了後は更地にして返還します。
  • 建物譲渡特約付借地権
    期間満了後にあらかじめ決めておいた金額で借地権者が土地を買い取る形態の契約です。借地権の存続期間は30年以上に設定する必要があります。
  • 一時使用目的の借地権
    仮設事務所などの用途で一時的に土地を借りる契約形態です。

借地権付き建物のメリット・デメリット

ここでは、借地権付き建物のメリットとデメリットについて解説します。

メリット

  1. 借地に対する税負担が不要
  2. 半永久的な賃借が可能
  3. 価格が安い

デメリット

  1. 月次で地代の支払いが必要
  2. 建物の増改築など工事を行う際の地主の承諾が必要
  3. 銀行の融資が受けられない可能性がある
  4. 売却時に地主の許可が必要

メリット1.借地に対する税負担が不要

借地権付き建物の場合、その土地は所有していませんので、土地に対する固定資産税や都市計画税を支払う必要はありません。これらの税負担は、借地人が利用している土地だったとしても、土地の所有者が負うものとなっています。

ただし、借地上の建物を借地人が所有している場合は、建物への課税に対する納税義務はありますので、ご注意ください。固定資産税や都市計画税などの負担は大きいので、それらを軽減できるメリットは大きいと言えます。

メリット2.半永久的な賃借が可能

借地権は有限ではあるものの、更新ができれば長期的な賃借が可能です。普通借地権の場合、最低期間が30年以上で、初回更新時は20年となっています。

契約更新ができない可能性もありますが、その際には地主が「正当な事由」を示さなければならないので、一方的に破棄されるようなことは考えにくいです。

正当な事由の一例として、「賃料の滞納がある」や「建物の老朽化・汚損・腐食」などが挙げられます。これらの正当な事由が無く更新を拒否する場合は、地主は借地権者に対して立ち退き料を支払う必要がありますので、覚えておきましょう。

メリット3.価格が安い

借地権付きの建物は、土地の所有権を取得している建物よりも安い価格に設定されていることが一般的です。その理由として、借地の利用に制限が多いことが挙げられます。

建物の建て替えやリノベーションなどを行う際には、地主の承諾と一定の承諾料が必要となります。デメリットはあるものの、所有権の取得に比べて初期費用を抑えられることがメリットと言えるでしょう。

デメリット1.月次で地代の支払いが必要

借地に対する使用料として地代を毎月支払う必要がある点がデメリットとなります。借地にマイホームを建てた場合でも土地代の支払いが発生しますので、住宅ローン+地代の支払いに抵抗を感じる方も多いでしょう。

その場合、地主との相談が必要になりますが、土地付きで購入することを検討してみてもいいでしょう。賃借の継続と購入を比較した場合、全体の費用で計算すると購入の方が安くなるケースもありますので検討してみてください。

デメリット2.建物の増改築など工事を行う際の地主の承諾が必要

所有する建物に工事を伴うリフォームやリノベーションを行う際は、地主の許可が必要となります。借地権契約の際に使用用途について決められていますので、内容を確認するようにしましょう。

承諾が得られた場合でも、土地に影響をおよぼすような工事になる場合は、地主への支払いが発生する可能性もあります。建物部分であっても地主による制限があり、自由にリフォームなどはできないことを覚えておきましょう。

デメリット3.銀行の融資が受けられない可能性がある

マイホームを建てる際に住宅ローンを組むケースが多いと思いますが、借地では銀行の融資を受けられない可能性がありますので、注意が必要です。借地は自己所有ではないため、担保としての評価が低く、金融機関の審査を通らない可能性があります。

多くの場合、地主が抵当権の設定を承諾する可能性が少ないため、担保にできるのは建物部分のみとなることが多いためです。ただし、住宅ローンの種類によっては、借地が担保であっても仕事や年収、貯金額などによって融資が受けられる場合もありますので事前に確認するようにしましょう。

デメリット4.売却時に地主の許可が必要

借地権の売却にあたっては、賃貸人の承諾が必要となることが民法に定められています。地主に無断で売却を行った場合、契約を解除させられる可能性がありますので注意が必要です。

地主に承諾を得るためには譲渡承諾料の支払うことが一般的で、概ね借地権価格の10%程度が相場となっています。借地権の売却にあたっては、地主の許可が必要で、コストと手間がかかることを覚えておきましょう。

借地権付き建物の相続は可能?

借地権は相続の対象で、配偶者や子などの法定相続人に相続することが可能であり、借地権者の死亡によって相続されます。

そのため、土地使用者の名義変更の手続きのみで、土地を継続的に利用することが可能です(土地の場合は地主に通知が必要です。また、建物の場合は名義を相続人名義に変更することが必要となります)。

借地権のトラブルとして多いのは、名義変更手続きのし忘れで、地主から不正利用を疑われるケースが挙げられます。借地権はその後の世代にまで引き継がれていく可能性がありますので、折にふれて挨拶をするなど、良好な関係を維持していくことが重要です。

借地権付き建物を売却することはできる?

借地権は、その土地を自由に使用できる権利を購入するものです。そのため、契約期間は残っていても賃借の当初の目的を果たしてしまった場合などは、その権利を売却したいと考える方も多いでしょう。

ここでは、借地権付き建物を売却できるかどうか、売却する際の方法などを解説していきます。

借地権は売却できる

結論から言うと、借地権の売却は可能です。借りている土地ではありますが、その土地を当該期間使用する権利を第三者に売却することができます。

その際、地主の承諾および譲渡承諾料として、借地権価格の10%程度を地主に支払うことが一般的です。借地権の売却は、地主の承諾なしに行うとトラブルになる可能性が高いので、必ず事前に相談するようにしましょう。

売却時は不動産会社に仲介を依頼するのがおすすめ

借地権売却時は、権利関係の手続きが難しいことに加えて、専門的な知識を要しますので、不動産会社に間に入ってもらうことがおすすめです。

また、地主との話し合いがこじれるケースなどもありますので、売却をスムーズに進めるために間に入ってもらう方が良いでしょう。地主の承諾を得るための交渉・調整が不調に終わった場合、裁判(借地非訟手続)によって承諾を得るというケースもあります。

その場合、決着までに時間と弁護士費用等のコストがかかりますし、地主との関係悪化にもつながる可能性もあります。専門的な知識を有した不動産会社を間にはさみ、良好な関係性を維持しながら、地主との交渉による決着を目指すようにしましょう。

借地権を売却する方法

借地権を売却する方法は、大きく以下の4つに分けられます。

  1. 借地権を地主に売却する
  2. 借地権を第三者に売却する
  3. 等価交換を行い、所有権にした上で売却
  4. 借地権と底地権をセットで売却する

それぞれの売却方法について解説していきます。

1.借地権を地主に売却する

借地権を地主に売却するのは最も一般的なケースで、承諾の交渉と売却の交渉を同時にできるのでプロセスを進めやすいことがメリットです。形としては借地権を地主に返還するものとなりますが、借地権を有している以上、地主の承諾が得られれば地主への売却も可能となります。

この場合、建物付きの土地として買い取ってもらう場合と、更地にして売却する場合の2つのパターンが考えられます。後者の場合、原状回復(更地化)や建物の解体費用は賃借人と地主のどちらが負担するかなど協議すべき事項がありますので、話し合いをしっかり行いましょう。

2.借地権を第三者に売却する

借地権を第三者の個人や法人に売却する方法で、借地権付き建物として個人の買主を探すケースと、買取業者に直接買い取ってもらうケースが考えられます。前者については、個人間での交渉はトラブルにつながりやすいので、不動産会社に仲介を依頼するようにしましょう。

後者については、早期の売却が可能ですが、相場価格よりも低い価格になってしまうことが多いです。いずれのケースにおいても地主からの借地権譲渡の承諾と承諾料の支払いに加え、建て替えも考えている場合はその承諾も必要ですので覚えておきましょう。

3.等価交換を行い、所有権にした上で売却

この場合の等価交換とは、借地権者の権利と地主の権利を交換し、土地を自己所有とした上で、その土地を売却する方法です。

この方式は、マンションを建設するデベロッパー側が建築費用を出す代わりに、地主が土地を提供するといった時に使われることが多くなっています。土地の評価額に応じて、マンションが完成した後に、建物の一部の所有権を交換するというものです。

借地権の売却でこの方法を使うためには、ある程度の広さがある土地との交換でかつ、地主と交渉して所有権を手に入れる必要があります。難易度は高いですが、所有した土地は自由に売却できることがメリットです。

4.借地権と底地権をセットで売却する

借地権と底地権をセットで売却する方法で、地主と協力して第三者に売却するといったことも可能です。

底地権とは、所有する土地を貸す権利のことです。他人の土地を使用する権利である借地権とセットにすることでより高い価格での売却が可能になります。

というのも、借地権・底地権のいずれも、権利の行使にあたって賃借人・地主の承諾・意向を確認しないと進められません。これらをセットで売却することで、買主・売主双方にメリットが大きい手法となります。

ただし、地主からすると土地をすべて売却することになりますので、承諾を得ることは難しいことが一般的です。日頃から地主との良好な関係を築き、交渉の際は慎重に進めることが求められます。

借地権付き建物に関してよくあるトラブル

借地権を保有していると地主と関わるケースが自ずと増えていきます。当然、双方に利害がありますので、トラブルが発生する可能性が高まります。

以下、起こりやすいトラブルを表にまとめましたので、参照してください。

  • 地代の値上げによるトラブル
    地主が一方的に地代の値上げを通告してきた場合、地主から借地借家法(新法)に定められた「正当な事由」が示されない場合には応じる必要はありません。
    まずは地主と話し合った上で従来通りの地代を支払うようにします。地主が支払いを受け取らない場合は、供託制度を利用します。
    供託は、法務大臣が指定する出張所である「供託所」に地代を預けることで、地代などを法的に支払ったとみなす制度です。
  • 地主から売却を承諾してもらえない
    地主から借地権の売却を承諾が得られない場合は、借地非訟手続きを使い、裁判所からの許可を得ることで、地主の承諾なしに借地権の売却が可能です。
    借地非訟手続きは専門的な知識が必要なため、弁護士や借地権の専門家に依頼して、代行してもらうのがおすすめです。
  • 借地権と建物登記の名義が異なったまま利用する
    建物の登記名義と借地権者が異なると、地主から不正利用を疑われるなどのトラブルになるケースがあり、場合によっては契約解除になる可能性があります。
    借地権を相続した際は、建物登記の名義が前使用者のままになっていますので、速やかに登記変更しましょう。

まとめ

ここまで、借地権をテーマに、売却方法や相続などについて解説してきました。

借地権に関するポイントを理解していただくことで、現在所有している・今後所有する予定の借地権について、考え方のポイントが整理できたかと思います。借地権の売却は可能ですが、地主の承諾が欠かせませんし、権利関係が複雑なケースも多く、個人間で進めるのは難しいでしょう。

そういった場合は、借地権についてノウハウ・実績が豊富な不動産会社を活用することが、売却成功のポイントとなります。

不動産会社が地主との交渉の仲介者となり、双方の意見にできるだけ沿った形で交渉をまとめられる着地点を見つけ出すなど、借地権の処分を円滑に素早く行うためのさまざまなサポートをしてくれるはずです。

この記事を書いた人

T.S MarketingLAB

T.S MarketingLAB

不動産ポータルサイト運営企業でマーケティングを担当していた経験を活かし、不動産市況・業界動向・エンドユーザーのトレンドについて、各種メディアでライターとして情報発信を行うほか、不動産会社のコンサル・業務課題ソリューションなども手掛ける。

監修者
吉田 宏
吉田 宏(株式会社SUMiTAS 代表取締役社長)
  • 二級建築施工管理技士
  • 宅地建物取引士
  • 測量士補
  • 賃貸不動産経営管理士

愛媛大学在学中に愛媛県で株式会社アート不動産を創業する。現在アート不動産では、アパマンショップ(賃貸)を5店舗、SUMiTAS(売買)を2店舗・管理センターを1店舗、売買店舗を2店舗運営。吉田 宏の詳細プロフィールはこちら