「相続土地国庫帰属制度」を利用すれば、相続や遺贈で取得した不要な土地を手放すことができます。土地を国に帰属させれば、納税や管理義務がなくなる点がメリットです。
しかしその一方で、対象となる土地が限られていたり、負担金の納付が必要だったりとデメリットもあるため、誰にでも適しているわけではありません。
本記事では相続土地国庫帰属制度のメリットとデメリットをはじめ、制度の利用が適している人を説明します。
目次
相続土地国庫帰属制度を利用するメリット
まずは、相続土地国庫帰属制度のメリットから説明します。
- 不要な土地を手放せる
- 土地の維持・管理費がかからなくなる
- 損害賠償責任が限定されている
「制度の概要から知りたい」という方は、以下の記事から目を通してみてください。
不要な土地を手放せる
過疎化が進む地域では土地の買い手が見つかりづらく、譲渡でも貰い手を見つけるのは容易ではありません。とくに田畑や森林のように、買い手が見つかりづらいだけではなく取引価格も低い土地は、不動産会社に相談しても断られる可能性があります。
そのようなときに相続土地国庫帰属制度を利用すれば、買い手や貰い手が見つからない土地を国に帰属させて、手放すことができます。
この制度では不要な土地のみを1筆単位で手放せるので、相続放棄のように、他の財産まで手放す必要はありません。他の財産とともに土地を相続したあと、土地のみを国に引き渡します。
土地の維持・管理費がかからなくなる
土地の維持・管理には、固定資産税や都市計画税がかかり、管理を人に任せる場合は管理費用もかかります。とくに更地の場合は固定資産税の軽減措置が適用されないので、空き家よりも税負担が重くなってしまう場合がほとんどです。
しかし、相続土地国庫帰属制度で土地を国に帰属させれば、10年分の管理費を負担金として納付することで、維持・管理費が一切かからなくなります。管理義務もなくなるため、金銭面と精神面の双方の負担を軽減できる点がメリットです。
損害賠償責任が限定されている
土地を売却したときには、売却後の一定期間は不備や欠陥に対して責任を持たなくてはなりません。これを「契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)」といって、土地に問題が発覚したときには、損害賠償や代金減額、契約解除などの何かしらの責任を負うことになります。
一方で、相続土地国庫帰属制度には契約不適合責任がなく、損害賠償責任が追求される場面も「土地が制度の対象外であると知りながらも、故意に黙っていたとき」と、極めて限定的です。
故意でなければ責任を問われない安心感があるのは、相続土地国庫帰属制度を利用する大きなメリットと言えるでしょう。
相続土地国庫帰属制度を利用するときのデメリット
相続土地国庫帰属制度にはさまざまなメリットがある一方で、知っておくべきデメリットもいくつかあります。
- 引き取ってもらえない可能性がある
- 手数料と負担金がかかる
- 共有名義の土地は共有者全員での申請が必要
それぞれ見ていきましょう。
引き取ってもらえない可能性がある
相続土地国庫帰属制度で引き取ってもらえるのは、“制度の対象外ではない土地”のみです。
制度の要件には申請段階で却下される土地と、申請で不承認になる土地が定められているため、当てはまるのであれば制度を利用できません。申請段階で却下となるのは、建物が建っている土地や土壌汚染されている土地、抵当権や担保権などの権利が設定されている土地です。
また、申請はできたとしても、崖地や擁壁工事が必要な土地や、土地の管理や処分を妨げるものが地上にある土地のように、帰属後に追加費用や労力を要する土地は、不承認になってしまう可能性があります。
項目の詳細は「相談したい土地の状況について(チェックシート)」からご覧いただけますので、申請前に目を通しておきましょう。
承認される土地とされない土地について説明したコラムもありますので、こちらも参考にしてください。
- 相続土地国庫帰属制度はどんな制度?承認される土地、されない土地とは?
- 抵当権とは?不動産のプロがわかりやすく解説!抹消手続きや売却時の注意点について
- 住宅ローン完済!自分で抵当権抹消する流れと費用、登記に必要書類を解説
- 傾斜地で土地活用はできる?おすすめの活用方法や活用前の確認事項を解説
手数料と負担金がかかる
相続土地国庫帰属制度には、申請時の審査手数料、承認後に負担金がかかります。審査手数料は1筆あたり14,000円と決まっていますが、負担金は土地の性質に応じて異なります。
宅地 | 一律20万円(一部の市街地を除く) |
田畑 | 一律20万円(一部の市街地、農用地区域の田、畑については面積に応じて算定) |
森林 | 面積に応じて算定 |
その他(雑種地、原野等) | 一律20万円 |
市街化区域や用途地域が指定されている土地は、負担金が高くなるように設定されているため、土地の面積によっては帰属にあたって高額な費用がかかる可能性があります。
仮に市街化区域や用途地域が指定されている330㎡(100坪)の土地ならば、108万5,000円の負担金が必要です。
土地を手放すためにお金がかかるのはデメリットですが、前述のように土地を所有し続ける限りは維持・管理費がかかるので、「維持費を払い続けるよりも1度の負担金を納付したほうがいい」という考え方もあります。
共有名義の土地は共有者全員での申請が必要
相続や遺贈で取得した土地ならば、複数人で共有する土地も相続土地国庫帰属制度を利用できます。相続や遺贈以外で共有持分を取得した共有者がいる場合も、制度の対象です。
ただし、申請時には共有者全員で共同申請する必要があり、共有者全員の承諾が得られなければ、制度の利用はできません。
自分の持分だけを手放すときには土地を分筆してからの申請となるため、手間も時間もかかる点がデメリットです。
相続土地国庫帰属制度の利用が適している人
メリットもあればデメリットもある相続土地国庫帰属制度ですが、どのような人に適しているのでしょうか。2つの状況から説明します。
土地の維持・管理が難しい人
前述のように、土地の維持管理には税金や管理費などのさまざまな費用がかかります。
維持費を払い続ける方が難しい方や、遠方に住んでいるなどで定期的な管理が難しい方は、審査手数料や負担金を払ってでも土地を手放すメリットのほうが大きい場合もあるでしょう。
とくに共有名義の土地は、維持費や管理を巡ってトラブルになるケースも少なくありません。土地を所有し続ける負担が大きいと感じるのなら、制度の利用を検討してみてください。
自分の代で土地を清算しておきたい人
売却や譲渡が難しい土地は、いずれ子孫へと受け継がれることになります。
ひと昔前までは土地や家は引き継がれるのが当たり前でしたが、最近では管理に費用と手間を要する不動産は、自分の代で処分する方が増えています。
子孫が土地を使う予定があれば、維持費を払ってでも所有し続けるメリットはありますが、そうでなければ制度の利用を検討したほうが良いでしょう。
相続土地国庫帰属制度以外の選択肢
不要な土地を手放す方法は、相続土地国庫帰属制度だけではありません。
- 不動産会社
- 空き家バンク
- 不動産引取業者
などの利用も検討してみてください。
不動産会社に相談すれば、売却や買取だけではなく、土地活用のアドバイスをもらえることもあります。土地活用をすれば収入を得られるようになり、収益性のある資産として土地を子孫に受け継いでもらえます。
また、土地の譲渡先を探すのなら、空き家バンクを利用する方法も検討してみてください。空き家バンクでは空き家だけではなく土地の売却や譲渡もできるので、まずは自治体の窓口で相談してみましょう。
売却も譲渡も難しく、相続土地国庫帰属制度でも対象外となる土地は、不動産引取業者を利用するのもひとつの方法です。手数料さえ支払えば、どのような状態の土地(不動産)でも引き取ってもらえます。
ただし相続土地国庫帰属制度よりも費用が高くなる場合がほとんどで、悪質な業者も存在するため注意が必要です。必ず相見積もりを取り、信頼できる会社に依頼してください。
メリットとデメリットを比較して、制度利用の判断を!
メリット | デメリット |
不要な土地を手放せる土地の維持・管理費がかからなくなる損害賠償責任が限定されている | 引き取ってもらえない可能性がある手数料と負担金がかかる共有名義の土地は共有者全員での申請が必要 |
相続土地国庫帰属制度の制定によって、売却も譲渡もできなかった土地を手放せるようになりました。国の帰属後は納税や管理義務がなくなり、子孫の相続権利もなくなります。
ただし、制度の対象となる土地は限られており、審査や帰属にあたって手数料や負担金もかかる点がデメリットです。市街化区域や用途地域が指定されている土地は負担金が20万円を超えることも多く、土地を手放すために高額な費用がかかります。
もし土地を手放すにあたって不動産会社に相談したことがないのであれば、制度の利用を検討する前に、不動産会社への相談をおすすめします。
土地の売却や買取だけではなく活用などの、さまざまなアドバイスをもらえるでしょう。
SUMiTAS(スミタス)では土地の売却、買取、活用の相談を承っておりますので、土地を手放したいと考えている方は、まずはご相談ください。