家の売却でやってはいけないこと。段階別チェックリストと「やってしまった場合のコスト」

家の売却でやってはいけないこと。段階別チェックリストと「やってしまった場合のコスト」

監修者
吉田 宏
吉田 宏(株式会社SUMiTAS 代表取締役社長)
  • 二級建築施工管理技士
  • 宅地建物取引士
  • 測量士補
  • 賃貸不動産経営管理士

家を売るとき、「やってはいけないこと」を検索すると、20選、25選、28選と項目数を競うような記事がたくさん出てきます。しかし、実際にはすべてを暗記する必要はありません。

失敗の多くは、突き詰めると1つの結果につながっています。それは「時間を失うこと」です。

首都圏の中古一戸建ては、売り出しから成約まで平均で約100日かかっています(東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向」2025年版。登録から成約に至る日数100.9日)。そして、新たに売り出された物件の平均価格(新規登録価格4,430万円)と、実際に成約した物件の平均価格(3,917万円)には約1割の開きがあります。売り出し価格を外し、判断を先延ばしにするほど、この「時間と価格の差」に飲み込まれていきます。

この記事では、やってはいけないことを「売り出し前」「売却活動中」「契約・引き渡し」の3つの段階に分け、それぞれ数個の致命的なNGに絞って解説します。各段階のチェックリストを見ながら、ご自身の状況を確認してください。

この記事の結論
  • やってはいけないことの大半は「時間を失う」ことに帰着する。時間の損失は価格の損失に直結する
  • 全部を覚える必要はない。段階ごとに数個の致命的なNGだけ避ければよい
  • 迷ったら「その行動は売却期間を延ばさないか?」で判断する
家の売却でやってはいけないことの段階別マップ。売り出し前・売却活動中・契約引き渡しの3段階ごとに致命的なNG行為を整理した図解

売り出し前にやってはいけないこと

チェックリスト(売り出し前)

やってはいけないこと何を失うか
相場を調べずに売り出し価格を決める時間と価格(下記で詳述)
1社だけの査定で決める価格の妥当性を判断する材料
査定額の高さだけで不動産会社を選ぶ3か月の販売期間
媒介契約の違いを理解せずに契約する販売活動の主導権
ローン残債を確認せずに売却を始める売却計画そのもの
自己判断でリフォーム・解体をする費用(回収できないことが多い)

相場を調べずに売り出し価格を決める

最も致命的なNGです。なぜ致命的かを、データで示します。

首都圏・中古一戸建ての「売り出しから成約までの日数」推移

一戸建ての売却は、平均で3か月強かかるのが実測値です。ここで売り出し価格を相場から外すとどうなるか。

「売り出されている価格」と「実際に売れた価格」の差(首都圏・中古戸建・2025年)

売り出し時の価格と、売れた価格には約1割の開きがあります。この差は、売り出し時の希望価格がそのまま通るとは限らないことを示しています。相場より高く出した物件は検討候補から早々に外れ、売れ残る期間だけ「売れ残り物件」という印象が積み重なります。結果として、値下げを重ねて相場以下で成約することになります。これが「高く出して様子を見る」の典型的な末路です。

相場は自分でも調べられます。国土交通省の「不動産情報ライブラリ」とレインズの「Market Information」で、実際の成約価格が地域別に公開されています。査定を受ける前に一度見ておくと、査定額の妥当性を自分で判断できるようになります。

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査定額の高さだけで不動産会社を選ぶ

査定額は「売れる価格の保証」ではありません。媒介契約を取るために相場より高い査定を出し、契約後に値下げを促す。この構図は業界で古くから知られています。

見るべきは査定額そのものではなく、査定額の根拠です。「近隣のどの成約事例と比べたのか」「プラス評価・マイナス評価はどこか」を説明できない査定は、数字の大きさに意味がありません。

媒介契約の違いを理解せずに契約する

媒介契約には一般・専任・専属専任の3種類があり、どれを選ぶかで販売活動の主導権が変わります。詳細は媒介契約の記事に譲りますが、最低限「専任・専属専任は1社に販売を任せる契約であり、その1社の力量と誠実さに結果が左右される」ことだけは理解して選んでください。

任せた1社が誠実かどうかを確認する手段は、具体的にあります。

  1. レインズ登録証明書を受け取る。専任媒介は契約から7日以内、専属専任は5日以内(いずれも契約日の翌日から数え、不動産会社の休業日を除く)のレインズ登録が宅建業法で義務づけられており、登録すると証明書が発行されます
  2. 販売状況の報告頻度を確認する。専任は2週間に1回以上、専属専任は1週間に1回以上の報告が法律で決まっています
  3. 証明書に記載されたIDで、売主自身がレインズ上の取引状況を確認する。自分の物件が「公開中」になっているか、勝手に「申込みあり」(正式には「書面による購入申込みあり」)の状態になっていないかを直接見られます

この3点を契約前に口頭で確認するだけでも、物件情報を隠して両手仲介(1社が売主と買主の両方を仲介し、双方から手数料を受け取る取引)を狙う「囲い込み」への牽制になります。

囲い込みを防ぐ契約前の確認3ステップ。レインズ登録証明書を受け取る、販売状況の報告頻度を確認する、証明書のIDで売主自身が取引状況を確認する

売却活動中にやってはいけないこと

チェックリスト(売却活動中)

やってはいけないこと何を失うか
反響がないのに価格を据え置き続ける売却期間
内覧の準備を怠る・立ち会いで話しすぎる目の前の買い手
販売活動を不動産会社に丸投げする状況を修正する機会
不具合・欠陥を隠す契約後の信頼と違約リスク
価格交渉を感情で拒否する成約の機会

反響がないのに価格を据え置き続ける

売り出しから成約まで、首都圏の中古一戸建てでは平均約100日です。この実測値から逆算すると、売り出しから1か月経って内覧の申し込みがない場合、価格か見せ方のどちらかが市場とずれていると判断できます。3か月を過ぎると「長く売れ残っている物件」として検索者に認識され始めます。これは、首都圏の中古一戸建ての場合の逆算となりますので、エリアや物件種別で目安の期間は大きく変わります。

値下げは「した方がいいか」ではなく「いつ・いくらするか」の問題です。

値下げ判断のタイムライン。売り出しから2週間・1か月・2か月・3か月の経過期間ごとに、反響の状態と見直すものを整理した図解

これはあくまで目安で、エリアや物件種別によって反響の出方は変わります。重要なのは、売り出し前に「いつ・何を見直すか」のルールを不動産会社と決めておくことです。決めておけば、感情に流されずに判断できます。

内覧の準備を怠る・立ち会いで話しすぎる

内覧は「物件を見る場」であると同時に、買い手にとっては「売主を見る場」でもあります。準備は3点に絞ってください。水回りの清掃、照明をすべて点けること、臭いの対策です。リフォームは不要ですが、この3点は内覧の第一印象を直接左右します。

見落とされがちなのが「話しすぎ」です。買い手は自分のペースで見たいものです。基本姿勢は「質問されたら答える」で、売主から設備の自慢や近所の話を続けると、買い手が物件を検討する時間を奪ってしまいます。話しすぎないためにも、予め不動産会社にアピールポイント(実際に住んでいて良いと感じる点)を伝えておくと良いでしょう。

また、住み替えの理由や売却を急ぐ事情をこちらから話すと、そのまま値引き交渉の材料になります。聞かれたら正直に、ただし自分からは差し出さない。このバランスが内覧対応の基本です。

不具合・欠陥を隠す

雨漏り、シロアリ、設備の故障。告げずに売ると、引き渡し後に契約不適合責任を問われ、修補や損害賠償、最悪の場合は契約解除に至ります。不具合は隠すものではなく、価格に織り込んで開示するものです。開示された不具合は交渉材料で済みますが、隠された不具合はトラブルになります。

価格交渉を感情で拒否する

売り出しから時間が経つと、指値(値引きを前提とした購入申し込み)が入ることがあります。ここで「安く見られた」と感情的に拒否するのは損です。

交渉は金額だけの話ではありません。引き渡し時期、残置物の扱い、修繕の要否など、金額以外の条件が交換材料になります。「金額はここまでしか下げられないが、引き渡し時期は買主の希望に合わせる」という返し方で成約に至るケースは珍しくありません。断るにしても、条件を添えて返してください。ゼロ回答で突き返した買い手は、まず戻ってきません。売り出しから2か月を過ぎた局面では、目の前の申し込みが最後の1件になる可能性まで含めて判断することをおすすめします。

契約・引き渡しでやってはいけないこと

チェックリスト(契約・引き渡し)

やってはいけないこと何を失うか
契約書・重要事項説明を確認せずに署名する交渉の最後の機会
契約後に自己都合でキャンセルする手付金(倍返し)
引き渡し日までに引っ越しの段取りをしない買主からの信頼・違約リスク
確定申告を忘れる特例による節税の機会

契約段階のNGは「知らなかった」がそのまま金銭的な損失になります。特に、売主都合の契約解除は手付金の倍返しが原則です。契約書の解除条項・違約金の定めは、署名の前に必ず確認してください。

また、売却で利益が出た場合はもちろん、3,000万円特別控除などの特例を使う場合も確定申告が必要です。「利益が出なかったから申告不要」と思い込んで特例を逃すケースがあります。

家の売却でよくある質問

不動産会社が一番嫌がる売主の行動は?

宅建業者の立場から正直にお答えします。嫌がられるのは「相場とかけ離れた価格を主張し続けること」「内覧に協力しないこと」「物件の情報(不具合を含む)を提供しないこと」です。

これらが嫌がられるのは、担当者の感情の問題ではなく、すべて売却期間を延ばす行動だからです。不動産会社が動きやすい売主は、結果として高く・早く売れます。協力関係を作ることは、売主自身の利益になります。

不動産用語の「飛ばし」とは?

媒介契約を結んでいる不動産会社を介さず、買主と直接取引をすることを、業界では「飛ばし」「抜き」と呼びます。仲介手数料を節約できるように見えますが、専属専任媒介の契約中の直接取引や、不動産会社の紹介で知った買主との「飛ばし」は、仲介手数料相当額の違約金を請求される場合があります。なお専任媒介では、自分で見つけた買主との直接取引自体は認められています(かかった費用の償還を求められることはあります)。また、契約書や重要事項説明のない個人間取引は、引き渡し後のトラブルを解決する枠組みがありません。

査定を受けたら、その会社で売らないといけませんか?

いいえ。査定は売却価格の見立てを聞く行為であって、契約ではありません。複数社の査定を比べることも、すべて断ることも自由です。売るかどうか自体を、査定額を見てから決めても構いません。営業電話が不安で査定をためらっている場合は、匿名で使える査定から相場感をつかむのが現実的です。

住宅ローンが残っていても売れますか?

売れます。ただし、引き渡しまでに残債を完済して抵当権を抹消することが条件です。売却額と自己資金で残債を返し切れるかどうかで取れる手段が変わるため、ローン残高の正確な確認が売却準備の最初の一歩になります。チェックリストの冒頭に「ローン残債を確認せずに売却を始める」を挙げたのは、ここがすべての計画の前提になるからです。

売り出してから「失敗した」と気づいたら、やり直せますか?

やり直せます。価格の修正、写真・掲載情報の見直しはいつでも可能です。媒介契約の切り替えも、契約期間が満了すれば行えます。取り返しがつかないのは「不具合を隠したまま契約する」「契約後にキャンセルする」など契約に関わるものだけです。売却活動中の失敗は、気づいた時点で修正すれば挽回できます。

まとめ: 迷ったら「時間を失わないか」で判断する

やってはいけないことを段階別に見てきました。共通する判断基準は1つです。その行動は、売却期間を延ばさないか。

一戸建ての売却は平均3か月強。この期間を無駄にしないためには、スタート地点である「売り出し価格」の精度がほぼすべてを決めます。

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本記事の市場データは、公益財団法人東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向」(2025年版ほか)をもとに作成したものです。

監修者
吉田 宏
吉田 宏(株式会社SUMiTAS 代表取締役社長)
  • 二級建築施工管理技士
  • 宅地建物取引士
  • 測量士補
  • 賃貸不動産経営管理士

愛媛大学在学中に愛媛県で株式会社アート不動産を創業する。現在アート不動産では、アパマンショップ(賃貸)を5店舗、SUMiTAS(売買)を2店舗・管理センターを1店舗、売買店舗を2店舗運営。吉田 宏の詳細プロフィールはこちら