任意売却が「できない」には、2つの型があります。
ひとつは手続きとして成立しない場合です。債権者や共有者の同意が取れない、あるいは競売の期日に間に合わない。もうひとつは売り出せたのに買い手がつかない場合です。
同じ「できない」でも、原因も打つ手もまったく違います。まず自分がどちらの型かを切り分けてください。この記事は、その切り分けと、残り時間ごとに何ができるかを整理したものです。
なお、この記事で扱う手続きの決まりは、その多くが住宅金融支援機構(フラット35などの借入先)の任意売却の取扱いルールです。機構が手続きの流れを公開しているためで、民間の金融機関では扱いが違う場合があります。ご自身の借入先がどこかを確かめたうえでお読みください。
- 「できない」は手続きが成立しない型と買い手がつかない型の2つ。打つ手が違います
- 住宅金融支援機構の場合、初回の媒介契約から6か月買い手が出ないと、競売への着手や仲介業者の変更を促されることがあります
- 入口の申出書を出すことは、返済を続ける権利を放棄する意思表示にあたります
- フラット35で団信に入っていると、全額繰上償還請求期限日で保障が終わります
- 控除できるのは仲介手数料・抹消登記費用など。引越費用は機構の資料に明記されていません
- 競売の新受件数は令和4年を底に3年連続で増加し、平均審理期間は9.1か月です
- まだ滞納していないなら、通常の売却という選択肢が残っています

目次
そもそも任意売却とは何か
住宅ローンの返済が続けられなくなったとき、売っても完済できない状態でも、債権者に抵当権を抹消してもらったうえで売却する方法です。
ここは誤解が多いところなので、はっきり書きます。任意売却は「抵当権が付いたままの家を売る」手続きではありません。抵当権が残った家は買主が付きません。債権者が抹消に応じるから売買が成立します。
住宅金融支援機構は、任意売却を勧める理由を3つ挙げています(任意売却パンフレット・令和8年4月版)。
- 通常の不動産取引として売買されるため、一般的に競売より高値での売却が期待でき、負債の縮減につながる
- 手続きに協力すれば、売却代金から諸費用を控除して渡せる場合があり、延滞損害金の減額の相談に応じられる場合もある
- 裁判所の手続きである競売と比べ、引渡し時期の調整がしやすく、退去後の生活設計が立てやすい
3つ目は見落とされがちですが、実務では大きな違いです。競売では引渡しの時期を自分で決められません。
任意売却そのものの全体像は任意売却とは、競売との制度的な違いは任意売却と競売の違いで扱っています。
控除できる費用は決まっている
機構のパンフレットは、控除を承諾できる諸費用として不動産仲介手数料・抹消登記費用・破産財団組入金などを挙げています。
なお、「任意売却なら引越し費用が出る」という説明を見かけることがありますが、機構の資料に引越費用の記載はありません。債権者や個別の事情によって扱いが変わる部分ですので、期待を前提に計画を立てないでください。
入口の書類が持つ意味
手続きは「任意売却に関する申出書」の提出から始まります。機構がまだ全額繰上償還を請求していない段階では、「期限の利益放棄確認用」という様式に実印を押し、印鑑証明書を添えて出します。
この提出が何を意味するか、パンフレットは明確に書いています。返済を継続することを断念し、月々の返済を行う権利を放棄したという意思表示にあたる、と。割賦返済中であれば、残債務全額の繰上償還が催告されます。
さらに、フラット35で新機構団信に加入している場合は、団体信用生命保険の保障が終了します(借入申込日が平成29年10月1日以後の買取型、および借入申込受理日が令和2年10月1日以後の金利組込方式)。期限の利益の喪失が債務弁済充当約款の解約事由にあたるためで、保障が終わるのは申出書を出した時点ではなく、全額繰上償還請求期限日です。
つまり、任意売却は返済を続けられている段階で気軽に選ぶ手続きではありません。まだ滞納していない段階なら、住宅ローン返済中の家を売るという通常の売却が選択肢に残っています。滞納がない状態での任意売却の可否は住宅ローンの滞納なしでも任意売却は可能?で扱っています。
型1: 手続きとして成立しないケース
同意が取れない、あるいは時間が足りない場合です。
| ケース | なぜできないか | 打てる手 |
|---|---|---|
| 債権者の同意が得られない | 抵当権を抹消するかどうかは債権者が決めます。売却予定価格と控除費用を審査した結果、応じられないと判断されることがあります | 価格と控除費用の内訳を見直して再提出します。保証会社が代位弁済して債権が移ると、交渉相手が変わって進むこともあります |
| 共有者の同意が得られない | 共有名義の不動産は、全員の同意がなければ売れません | 早い段階で全員に事情と期限を説明します。連絡が取れない共有者がいる場合は時間がかかるため、最優先で着手します |
| 連帯保証人の同意が得られない | 保証人の負担が変わるため、調整が必要になります | 同上 |
| 税金の滞納で差押えが入っている | 抵当権を抹消してもらうための債権者との交渉に加えて、差押えを解除してもらうための調整が必要になります。差押えの登記が残ったままでは引き渡せません | 自治体の納税相談窓口で分納などを相談します。ここは税の領域なので、専門の窓口へ。並行して、解除に応じてもらうための費用を売却代金から控除できるかを債権者とも協議します |
| 期日に間に合わない | 競売が進行し開札の期日が来れば、そこで終わります | 残り時間を確認し、間に合う価格で出すか判断します |
債権者は何を見ているのか
「同意が得られない」と書かれることは多いのですが、債権者が何を審査しているかまで書かれていることは稀です。機構のパンフレットには、次のように書かれています。
- 売却予定価格と控除費用の額を審査した結果、抵当権抹消に応じることができないと判断した場合は、任意売却を断念して競売手続きに着手することがある
- 機構が通知した売出価格未満で購入希望者を見つけても、抵当権抹消に応じられない場合がある
- 購入希望者の書類を送付してから、抵当権抹消の可否の通知までに2週間程度かかる
つまり、審査されているのは主に価格です。「安くしてでも早く売りたい」は通りません。債権者にとっては回収額が減るからです。
タイムリミットはいつか

機構の手続きには、はっきりした期限がいくつもあります。
| 段階 | 期限 |
|---|---|
| 申出書の提出から債権回収会社への委託まで | 通常3か月程度(委託後は窓口が債権回収会社に変わります) |
| 媒介契約の締結後 | 10営業日以内に媒介契約書の写しとレインズ登録証を提出 |
| 初回の媒介契約締結日から | 6か月を経過しても購入希望者が現れない場合、任意売却を断念して競売手続きに着手、または仲介業者の変更を促されることがあります |
| 購入希望者の書類提出後 | 抵当権抹消の可否の通知まで2週間程度 |
この「6か月」が、機構が任意売却を続けるかどうかを判断する目安になります。競売の開札期日まで理論上は可能だと説明されることがありますが、機構の手続きでは、その手前に継続の可否を見直す基準が置かれているということです。6か月を過ぎたら必ず終わるわけではなく、業者を替えて続ける場合もあります。
なお、任意売却では専任媒介契約または専属専任媒介契約を結ぶことになっています(一般媒介は使えません)。複数社に同時に頼んで反応を見る、という進め方はできないということです。1社に任せる形になるので、任意売却に強い不動産業者の選び方を先に読んでおくことをおすすめします。
型2: 買い手がつかないケース
売り出しているのに反応がない場合です。原因は3つに絞られます。
価格が需要と合っていない
最も多い原因です。ただし任意売却では、価格を下げるにも債権者の承諾が必要です。勝手には下げられません。
見直しを希望する場合は、仲介業者を通じて「販売活動状況報告書」に見直しの理由と状況を記載して提出します。機構の手続きでは、この様式が用意されています。感覚で「下げましょう」と言うのではなく、反響数や内覧数といった事実を添えて説明することが通りやすさにつながります。
物件の状態が価格に見合っていない
雨漏り、シロアリ、設備の著しい劣化などがあると、買主は補修費を見込んで判断します。状態が悪いこと自体が問題なのではなく、状態と価格が釣り合っていないことが問題です。修繕に資金を回せない状況が多いので、現実的には価格側での調整になります。
機構のパンフレットも、売主に対して室内外の清掃や家具の整理への協力、内覧やオープンハウスへの積極的な協力を求めています。お金をかけずにできることは、ここです。
販売活動が届いていない
任意売却でも、販売活動の中身は通常の売却と変わりません。機構は仲介業者に対し、特段の事情がない限り自社サイトや不動産情報サイトに物件情報を掲載し、買主が自分で探せる状態にすることを求めています。紙媒体を使う場合も間取図や写真を付けるよう指示しています。
裏を返せば、掲載されていない、写真がない、という状態は改善の余地があるということです。自分の物件がポータルサイトでどう見えているかは、確認しておいてください。
内覧ができない
売主が住んだままのことが多いため、同居する家族の協力が要ります。内覧を受けられない事情があるなら、その解決が先です。内覧の進め方そのものは家の売却は内覧で決まる?にまとめています。
物件そのものに制約がある
建ぺい率や容積率をオーバーしている、接道が足りないといった物件は、買主が住宅ローンを使えないことがあります。買える人が現金を用意できる層に限られるため、買い手の母数がそもそも小さくなります。
増築を重ねた結果として既存不適格や違反建築になっている例は珍しくありません。この場合、価格を下げても解決しないことがあります。買えない人には、いくら安くても買えないからです。買取業者を含めた出口の検討が要ります。
型ごとの打ち手の早見表
| 症状 | どちらの型か | 最初に確認すること |
|---|---|---|
| 債権者から回答が来ない | 手続き | 売却予定価格と控除費用の内訳。審査の対象はここです |
| 共有者と連絡が取れない | 手続き | 残り時間。最優先で着手します |
| 差押えの登記が入った | 手続き | 誰が差し押さえたか。自治体なら納税相談窓口へ |
| 内覧の申し込みがない | 買い手 | ポータルサイトでの見え方(掲載の有無・写真・間取図) |
| 内覧はあるが決まらない | 買い手 | 価格と物件の状態の釣り合い |
| 融資が通らず契約が流れる | 買い手 | 物件の制約(建ぺい率・容積率・接道) |
任意売却ができなかったらどうなるか
競売の手続きに進みます。

裁判所の統計を見ると、不動産執行事件の新受件数は令和4年の15,449件を底に3年連続で増えています(令和5年15,814件、令和6年17,599件、令和7年18,109件)。令和7年は令和4年比で17.2%の増加です。
平均審理期間も8.4か月(令和5年)から9.1か月(令和7年)へ延びています。申立てから終わるまで、およそ9か月かかるということです。この間、住み続けられるという見方もできますが、引渡しの時期を自分で決められないという意味でもあります。
競売と任意売却の違いは任意売却と競売の違いで詳しく扱っています。
残った債務はどうなるか
売却しても完済できなければ、残った債務の返済義務は残ります(破産免責を受けた場合を除く)。
ただし、機構のパンフレットにはこう書かれています。「任意売却後の返済計画は、お客さまの生活状況等を踏まえてお客さまとともに返済可能な金額を決定していきます」。
一括で請求されて終わり、というものではありません。返済額の相談ができる余地があることが、債権者側の資料に明記されています。残債の扱いは任意売却後の残債はどうなる?で詳しく扱っています。
個人再生や自己破産といった債務整理の手続きもありますが、適用できるかどうかの判断は弁護士・司法書士の領域です。当社では判断しません。相談先の整理は任意売却の相談はどこにする?をご覧ください。
よくある質問
まだ滞納していませんが、任意売却できますか?
機構の手続きでは、入口の申出書を出すこと自体が返済継続の断念を意味します。滞納していないなら、通常の売却で完済できないかを先に確認してください。詳しくは住宅ローンの滞納なしでも任意売却は可能?をご覧ください。
債権者が同意しない場合はどうすればよいですか?
審査されているのは主に売却予定価格と控除費用です。価格の根拠を作り直して再提出するのが基本です。保証会社が代位弁済して債権が移ると、交渉相手が変わって進むこともあります。
競売の開始決定が出た後でも間に合いますか?
制度上は開札の期日までですが、機構の手続きには初回媒介契約から6か月という別の基準があります。残り時間は自分の状況で変わるので、まず債権者に現在の段階を確認してください。
離婚が理由でオーバーローンです。任意売却しかありませんか?
いいえ。自己資金・住み替えローン・時期をずらすという手が先にあります。離婚の場面での整理は離婚でオーバーローンの家を売却にまとめています。
引越し費用は出ますか?
機構の任意売却パンフレットには、引越費用の記載はありません。控除を承諾できる諸費用として挙がっているのは仲介手数料・抹消登記費用・破産財団組入金などです。債権者や状況によって扱いが変わるため、担当窓口にご確認ください。
まとめ: まず2つの型を切り分ける
任意売却ができないときは、まず型の切り分けからです。
- 手続きが成立しない型(同意・期日)と買い手がつかない型(価格・状態・販売活動)で、打つ手が違います
- 機構の場合、初回の媒介契約から6か月が、継続するか競売へ進むか業者を替えるかを判断される目安です
- 債権者が審査しているのは主に価格。安くすれば通るわけではありません
- 申出書の提出は返済を続ける権利の放棄にあたり、フラット35の団信も全額繰上償還請求期限日で終わります
- できなかった場合は競売へ。件数は3年連続で増加し、平均審理期間は9.1か月です
- 残債は相談の余地があります。債権者側の資料にもそう書かれています
滞納がまだ始まっていないなら、通常の売却で完済できるかを先に確かめてください。SUMiTASでは物件の情報だけで価格の目安が分かる10秒査定をご用意しています。電話番号の入力は不要です。
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