事故物件は売却できます。法律で売買が禁じられているわけではなく、仲介で買い手を探す方法も、買取業者に引き取ってもらう方法もあります。ただし、どの物件も同じように買い手が付くわけではありません。
ただし、通常の売却と決定的に違う点がひとつあります。決め手になるのは価格ではなく、告知をやり切れるかどうかです。
インターネットで調べると「相場より1〜5割下がる」といった数字が並びます。しかし、この幅を裏づける公的な統計は見当たりません。国や業界団体が公表しているもので、死因ごとの下落率を調べた調査は確認できませんでした。数字を先に信じても、ご自身の物件がいくらになるかは分かりません。
先に押さえるべきは、何を、いつまで、どう伝えるかです。国土交通省が2021年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を出しており、判断の枠組みはここに書かれています。この記事では、その原文にそって告知の要否を整理し、告知書への書き方、そして仲介で売れる物件と買取に回す物件の線引きまで説明します。
- 事故物件も売却できる。決め手は価格ではなく告知
- 国交省ガイドラインでは、自然死や日常生活の中での不慮の死は原則として告げなくてよい。ただし特殊清掃が行われた場合は別
- 自死や他殺は、特殊清掃が行われていなくても告げる対象。特殊清掃の有無で分かれるのは自然死と不慮の死の場合だけ
- 「概ね3年」という目安が示されているのは賃貸だけ。売買には期間の定めがない
- 「1〜5割下がる」に公的な統計はない。価格は死因・立地・経過年数・買い手の種類で動く
目次
事故物件とは何か。告知が必要な場合と不要な場合

「事故物件」は法律上の用語ではありません。実務では、過去に人が亡くなったことなどが買主の判断に影響しうる物件を指して使われます。なお、これから引くガイドラインが対象にしているのは住宅として使われる不動産(居住用不動産)で、オフィスなどの事業用は対象外とされています。この記事も個人の住宅の売却を前提にしています。
国交省のガイドラインは、告げなくてもよい場合を3つ挙げています。原文から要点を引くと次のとおりです。
1. 自然死・日常生活の中での不慮の死
老衰、持病による病死など、いわゆる自然死については…原則として、賃貸借取引及び売買取引いずれの場合も、これを告げなくてもよい
階段からの転落、入浴中の溺死や転倒、食事中の誤嚥といった日常生活の中での不慮の事故による死も、同じ扱いです。
ただしここに重要な例外があります。
過去に人が死亡し、長期間にわたって人知れず放置されたこと等に伴い、いわゆる特殊清掃や大規模リフォーム等が行われた場合においては…(告げる側の扱いになる)
つまり、自然死であっても特殊清掃が行われていれば、告げる対象になります。ここは実務でも判断が分かれやすいところです。
2. 賃貸で、概ね3年が経過した場合
これは後の章で詳しく扱いますが、この期間の目安は賃貸だけのものです。
3. 隣の部屋や、日常生活で通常使わない共用部分での死
その隣接住戸又は借主もしくは買主が日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分において…原則として、これを告げなくてもよい
逆に、ベランダや共用の玄関・エレベーター・廊下・階段など、日常的に使う共用部分は取引対象と同じ扱いになります。
そして、上の3つ以外は次のとおりです。
宅地建物取引業者は、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は、買主・借主に対してこれを告げなければならない
自死や他殺は、この「3つ以外」に当たります。特殊清掃が行われていなくても、告げる対象です。特殊清掃の有無で結論が変わるのは、自然死と日常生活の中での不慮の死の場合だけだと押さえてください。
なお、いずれの場合でも、買主から事案の有無を問われたときは、経過期間や死因にかかわらず、調査で判明した点を告げる必要があります。これはガイドラインが別に定めている取り扱いです。
売買には「何年で告げなくてよくなる」という定めがない
「何年経てば言わなくていいのか」は、最もよく受ける質問です。ここは正確に押さえてください。

ガイドラインが「概ね3年」と書いているのは、賃貸借取引についてだけです。原文を引きます。
賃貸借取引の対象不動産において①以外の死が発生している場合又は①の死が発生して特殊清掃等が行われた場合には…概ね3年間を経過した後は、原則として、借主に対してこれを告げなくてもよい
主語が「借主に対して」であることに注意してください。売買については、これに相当する期間の定めがガイドラインに置かれていません。
ここを「売買の告知義務は時効なし」と説明しているものを見かけますが、正確には「何年で消える」という線引きが売買には存在しないということです。売買で告げるべきかどうかの基準は期間ではなく、次の一文です。
取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合
したがって、10年前でも20年前でも、その事案が買主の判断に重要な影響を及ぼすと考えられるなら告げることになります。逆に、年数だけを根拠に「もう言わなくてよい」と自己判断するのは危険です。
なお、賃貸の「概ね3年」にも例外があります。ガイドラインは「事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りではない」としています。
賃貸には「概ね3年」という目安がありますが、売買にその線はありません。「何年経ったか」ではなく、「買う方の判断に影響するか」、つまり安心安全な取引になるかで考えてください。迷ったら、隠さずに不動産会社へ事実を伝えるのが結局いちばん早く進みますし、後々の問題のリスクも抑えられます。
告知書には、何を書いて、何を書かないか

告知は口頭だけで終わらせるのではなく、書面に残すのが実務です。売主が記入する告知書(物件状況等報告書)に書くのが一般的で、後日のトラブル防止の観点からも望ましいとされています。
ガイドラインは、不動産会社の調査義務についてこう定めています。
媒介を行う宅地建物取引業者においては、売主・貸主に対して、告知書(物件状況等報告書)その他の書面に過去に生じた事案についての記載を求めることにより、媒介活動に伴う通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとする
つまり、告知書に書くかどうかが起点です。ここに書かれなかった事案が後から判明した場合、不動産会社に重大な過失がなければ調査は適正だったとされます。売主が知っていて書かなかった場合にどこまで責任を負うかは、契約の内容や個別の事情によって判断されます。
書くこと
ガイドラインが、不動産会社から買主へ告げる内容として挙げているのは次の4つです。告知書の様式は会社ごとに違いますが、この4つが書けるように事実を整理しておきます。
| 書く項目 | 補足 |
|---|---|
| 事案の発生時期 | 特殊清掃が行われた場合は「発覚時期」 |
| 場所 | 建物内のどこか |
| 死因 | 自然死・他殺・自死・事故死の別。不明ならその旨 |
| 特殊清掃等が行われた旨 | 行われた場合 |
SUMiTASの店舗で実際に使われている告知書を例に見てみます。全宅連(公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会)の売買契約書で使う書式「物件状況確認書(告知書)」には、「売買物件に影響を及ぼすと思われる過去に起きた事件・事故」という欄があり、「無・有・不明」のいずれかを選んで内容を書き込みます。書式の記入要領にも、人の死に関する事案がある場合はこの4つを書くこと、氏名や年齢、家族構成などは書く必要がないことが明記されています。
| 欄 | 記入例 |
|---|---|
| 売買物件に影響を及ぼすと思われる過去に起きた事件・事故 | 有 |
| 内容 | 令和◯年◯月頃、建物内で売主の親族が亡くなりました(自死)。 |
※実際に記入された告知書をもとに、個人が特定されないよう時期や続柄を伏せ、記述を一部省いて整えています。特殊清掃が行われた場合は、その旨も書きます。
書かなくてよいこと
告げる際には、亡くなった方やその遺族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、これらを不当に侵害することのないようにする必要があることから、氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はない
ご遺族が「どこまで書かなければいけないのか」を気にされることは多いのですが、氏名や家族構成、亡くなった状況の詳細まで書く必要はありません。ここは安心していただいて構いません。
また、ガイドラインは「後日のトラブル防止の観点から、書面の交付等によることが望ましい」としています。口頭で伝えたつもりが後で争いになるのを避けるため、記録に残る形にしてください。
告知書は、ありのままの事実を書くのが、売主にとってもご遺族にとっても最も安全です。書き方に迷うところは遠慮なく担当者に聞いてください。
「1〜5割下がる」に、根拠となる統計はない
死因ごとの下落率は、いろいろな場所で目にします。ただ、その数字がどの調査から出たものかは、たいてい示されていません。国や業界団体が公表しているもので、死因別の下落率を調べた統計も確認できませんでした。
ですから当社は、この記事に下落率の数字を書きません。書けば、出所のない数字がまた一つ増えるだけだからです。
代わりに、価格が動く仕組みを説明します。事故物件の価格は、次の4つで決まります。
1. 死因と経過
自然死で特殊清掃も不要だったものと、事件性のあるものとでは、買い手の受け止め方がまったく違います。ここが最も大きく効きます。
2. 立地と需要の厚さ
その地域に物件を探している人が多ければ、条件が合う買い手に出会える確率が上がります。都心と郊外で結果が変わるのはこのためです。
3. 買い手が誰か
自分で住む人、賃貸に出す投資家、買取業者では、価格の考え方が違います。投資家は利回りで判断するため、住む人ほど心理的な影響を受けません。
4. 建物の状態
特殊清掃や原状回復が済んでいるかどうかで、買い手が引き受ける手間が変わります。
つまり、下落率は「事故物件だから何割」ではなく、この4つの組み合わせで決まります。ご自身の物件がいくらになるかは、この4つを見た査定でしか分かりません。
仲介で売れる事故物件、買取に回す事故物件
売り方は、通常の物件と同じく仲介と買取の2つです。線引きの目安を整理します。
| 仲介で売る | 買い取ってもらう | |
|---|---|---|
| 向いている状況 | 立地に需要がある/事件性が低い/時間に余裕がある | 早く手放したい/近隣に知られたくない/管理が難しい |
| 価格 | 市場で買い手が付いた金額 | 市場価格より低くなるのが一般的 |
| 期間 | 買い手が見つかるまで | 買主を探す期間がない |
仲介で戦えるかどうかは、立地と事件性で決まります。需要が厚い地域で、事件性が低く、原状回復が済んでいるなら、価格を調整すれば買い手は見つかります。逆に、需要の薄い地域で事件性が高い場合は、時間をかけても状況が変わりにくく、買取のほうが結果的に負担が小さいことがあります。長く売れないときの考え方は土地が売れないときの記事にまとめました。
仲介で売り出す場合、内覧の対応は通常の物件と変わりません。事案について買主から質問があれば、告知書に書いた内容をそのまま答えれば足ります。内覧の準備は内覧の記事を参考にしてください。媒介契約の選び方は媒介契約の3種類を比較した記事で解説しています。
買取業者に依頼する場合は、免許と行政処分の履歴を確認してください。宅地建物取引業の免許番号は必ず表示されているはずですし、国土交通省の「ネガティブ情報等検索システム」で行政処分の履歴を無料で調べられます。買取の流れは不動産買取の流れの記事、空き家の買取は空き家の買取の記事で解説しています。
なお、室内に物が大量に残っている場合の扱いはゴミ屋敷の売却の記事にまとめました。
相続した事故物件の進め方
相続した不動産が事故物件だった場合、売却の前に片付けておくことがあります。
- 相続登記: 名義が亡くなった方のままだと買主へ所有権を移せません。2024年4月1日から義務化されており、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内に申請しなければなりません(不動産登記法76条の2)
- 相続人の同意: 複数人で相続した場合、不動産全体を売るには全員の同意が要ります
- 事案の情報を整理する: いつ、どこで、何が起きたか、特殊清掃は行われたか。告知書に書く4項目を、相続人の間で先にそろえておくと手続きが滞りません
相続した不動産の売却手順は相続した土地の売却の記事、必要書類は売却に必要な書類の記事を参考にしてください。
相続で引き継いだ物件は、ご本人が事情をご存じないことがあります。分からないことは「分からない」と告知書に書いて構いません。ガイドラインでも、売主から不明と回答があった場合、不動産会社はその旨を買主に告げれば足りるとされています。
費用と税金
事故物件だからといって、売却にかかる費用の仕組みが変わるわけではありません。仲介手数料や印紙税は通常の売却と同じです。特殊清掃や原状回復を行う場合に、その費用が加わります。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 仲介手数料(法律上の上限) | 3,000万円で売却した場合105.6万円 |
| 印紙税 | 3,000万円の契約書で1万円(2027年3月31日までの軽減) |
| 特殊清掃・原状回復 | 状況によって大きく変わります |
費用の全体像と手取りの計算は不動産売却の費用の記事にまとめています。
税金は、売って利益が出た場合に譲渡所得への課税があります。申告は売却した翌年の2月16日から3月15日までです。税額の計算や特例が使えるかどうかの判断は、税務署または税理士へご相談ください。売却にかかる税金の全体像は土地売却の税金の記事で扱っています。
事故物件の売却でよくある質問
事故物件はいくらで売れますか?
一律の答えはありません。「相場より1〜5割下がる」といった数字が広く出回っていますが、公的な統計は確認できませんでした。実際の価格は、死因と経過、立地の需要、買い手が誰か、建物の状態の4つで決まります。ご自身の物件については査定で確かめてください。
事故物件は何年経っても言わなくてはいけませんか?
賃貸と売買で扱いが違います。ガイドラインが「概ね3年」という目安を示しているのは賃貸だけで、売買にはこれに相当する期間の定めがありません。売買では、その事案が買主の判断に重要な影響を及ぼすと考えられるかどうかで判断します。年数だけを根拠に自己判断しないでください。
一度誰かが住めば、告知しなくてよくなりますか?
そうはなりません。ガイドラインに、入居者が入れば告知が不要になるという定めはありません。売買では期間の定めもないため、「誰かが住んだから消える」という考え方は取れません。
事故物件で自然死があった場合でも、告知は必要ですか?
原則として不要です。ただし、発見が遅れて特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合は、告げる対象になります。特殊清掃の有無で分かれるのは、自然死と日常生活の中での不慮の死の場合だけです。自死や他殺は、特殊清掃が行われていなくても告げる対象になります。
事故物件であることを隠して売ったらどうなりますか?
告げるべき事案を告げずに売った場合、契約不適合責任を問われ、損害賠償や契約解除につながる可能性があります。加えて、不動産会社は宅地建物取引業法上の説明義務を負っています。売主にとっても、隠すことで得られるものはありません。避けたい行動は家の売却でやってはいけないことの記事にもまとめています。
まとめ: 価格より先に、告知を決める
事故物件は売却できます。決め手になるのは価格ではなく、告知をやり切れるかどうかです。
国交省のガイドラインでは、自然死や日常生活の中での不慮の死は原則として告げなくてよいとされています。ただし特殊清掃が行われていれば、告げる対象になります。自死や他殺は、特殊清掃の有無にかかわらず告げる対象です。そして「概ね3年」という目安があるのは賃貸だけで、売買には期間の定めがありません。年数を根拠にした自己判断は避けてください。
ガイドラインで買主に告げるとされているのは、発生時期、場所、死因、特殊清掃の有無の4つで、告知書にはこの4つが分かるように書きます。氏名や家族構成、亡くなった状況の詳細まで書く必要はありません。
価格については、出回っている下落率に公的な根拠はありません。実際の金額は、死因と経過、立地、買い手の種類、建物の状態を見た査定で確かめるのが確実です。
まずは現況のままで、いくらになるかを把握するところからで構いません。当社の10秒査定は、匿名で、電話番号の入力もなくお使いいただけます。
不動産売却ガイド
